第31話 それからと
彼女が街から居なくなって、2ヶ月。毎日、2往復ほどのメールのやりとりが続いた。
返信を催促するでもなく、されるでもない。お互いにとって負担にならないやりとり。
それでも、私の中には小さな虚しさが積もっていた。
そして、ある日彼女が、
「歳の近い先輩が事あるごとに、しつこくご飯とか遊びにとかに誘って来る」と言うメールが送られて来た。
いつかに感じた、冷ややかな感情がが私の中を満たした。
私は返事を返さなかった。
彼女からの連絡もそれきりだった。
未練で続いていた細い糸も等々切れた。切った。
あっけないものだ。
だが、茨城は良い意味でも遠かった。中途半端な距離ではなかったから踏ん切りがついた。そういう意味で良かった。
その年の6月。私はバージニアに出掛けた。
ガレージには自己主張の強い赤色のMINIが止まっていた。そして、彼女の定位置にはスーツ姿の女性の姿があった。
隣には座るわけにもいかず、私は入口に近い屋根の下の席に腰を落ち着けた。
梅雨明けを待って、再び出掛けると、また同じMINIが止まっていて、長椅子には彼女と私を思い出させるように、それぞれの定位置に男女が座って、談笑をしていた。
私はそんな姿を見ながら、はじめて店内のカウンターに座った。
「いつもありがとうございます。最近、彼女さんは?見かけないんだけど」
と店の主である初老のご婦人が私に声を掛けてくれた。
私は、私と彼女が近くの大学生であったこと、今年卒業したこと、彼女が地元に帰ってしまったことを話した。ただ、[彼女さん]と言うところは訂正はしなかった。
「そう。遠距離なんて寂しいわね。でも、今はメールとかあるから、そんなに寂しくないわよね」
「はい、そうですね」
「あの子、1人で来ることが多くて、心配で何度か今日は彼氏さんは来るの?って何度か聞いたことがあるのよ、そしたら「あとから来ます」って嬉しそうだったから」とご婦人は懐かしむような眼差しでテラス席を見た後、私の顔を見て微笑んだ。
「ところで、あの2人は新しいお客さんですか?」
「そうね。女の人の方は4月の中頃で男の子の方は6月くらいからだったと思うわ」
「すっかり、定位置をとられてしまいましたよ」
そうか。と私はなぜか優しい気持ちになると、そう言って笑った。
バージニアを出て、私は振り返ると、この場所が彼女との最後の場所で良かったと思った。
もしも、彼女ともう一度話す機会があったなら、あの2人のことを話そうと決めた。
きっともう、私がバージニアを訪れることはないと思う。
あのテラス席にはもう、彼女と私の席はないのだから。
この場所で1つの物語が終わり、また新しい物語が始まっている。
なんて素晴らしいことだろう。
それから、人生と言う道を紆余曲折を経て歩き続け9年の月日が経った。
相変わらず、彼女とは音信不通のまま。
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