第20話 12月24日

 プレゼントをコインロッカーに忍ばせて。私は彼女を待っていた。


 彼女と今日、出かけることができる非現実に、私は行きかう人たちを見ながら果たして現実と夢とが混同しているようなふわふわした面持ちで駅舎の柱に背を預けていた。


 大幅に待ち合わせ時間を過ぎて改札に現れた彼女。遅刻の云々を言う前に彼女の姿に私は束の間無言で彼女を見ているしかできなかった。


「ごめなさい。美容院行ってたら予定よりも時間かかって」


 ばつの悪そうに開口一番に彼女はそう言った。 


 いつも括っている髪はおろされていて、微かに香甘い香りにしっかりと化粧を施された面貌は、いつもよりずっと目鼻立ちがはっきりとしていたし、はじめて見る薄紅色のトレンチコートからは、足首の所にさり気なく蝶がいる黒タイツ、靴はいつか見たワインレッドの革靴だった。


 そんな彼女を前にして、遅刻くらいで文句を言える男などこの世にはいない。

 

 買い替えた特急券を彼女に渡して、乗り換えのホームへ向かい、待ち時間をぎくしゃくしながら、途切れ途切れな会話をした。

 初めて見る彼女の姿に私は頭の先からつま先まで緊張してしまってしまったのだ。

 正直に彼女はとても可愛かった。そして美しかった。どんな賛辞を尽くしても尚、足りないくらいにそれはもう佳麗だった。こんな人とクリスマスの1日を過ごせる私は、世界で1番幸せ者であると自慢できるくらいに……



 特急券に記載された時刻を過ぎても、特急は来なかった。


 すっかり浮かれていた私は、1階上にもう1つ特急専用のホームがあることを失念していたのだ。この路線を、特急を利用するのが初めての彼女にわかるはずもない。最初の最初で私のエスコートは大失敗をしてしまったのだった。


 だが、捨てる神あれば拾う神あり。項垂れて、駅係員に事情を説明すると、御好意で乗車券を次の特急の乗車券と交換してくれた。

 

 イレギュラーなトラブルは2時間以上のロスを生んでいた。ディナーまでのタイムスケジュールを綿密に組み、印刷しておいたのだが、すでにそれは無用の長物と化している。私は特急の中で焦りながら、新しいタイムスケジュールを組み立てていた。


「ごめんね。本当に、ずっと前から約束してたのに、当日遅刻して」


 お茶の入ったペットボトルを両手で転がしながら彼女は声を細めて言った。

 はっとなって、彼女の方を見やると、とても申し訳なさそうに私の顔色を窺っている彼女の表情があった……


「気にしないで気にしないで、いやホーム間違えるとか、やらかしたなーって」と私はごまかして頭掻くと、タイムスケジュールの組直し作業をやめた。


 目的は彼女をエスコートすることではない。


 今日の目的は、彼女とのデートを楽しむ事なのだから。


 計算ができない分、不安はあったが、[成せば大抵なんとかなる]私は覚悟を決めて、彼女との時間を精いっぱい大切に楽しむことにした。

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