ビャク

 目の前に降り立った仔猫の化身は、今や可愛らしい女の子に姿を変えて、自分を「ビャク」と自己紹介した。

 ぱっと見いショートカットが似合う女の子やけど、その髪は真っ白で、猫が化けた時にはお決まりの可愛らしい猫耳もピコピコ動いてる。

 服装の基本型は巫女服。

 やけど肩から袖が無くまるでノースリーブみたいやし、緋袴は太ももの辺りから裾がない、まるでミニスカートの様に見える。

 まーぶっちゃけ、こんな格好はゲームかアニメかコミケでしか見れんと思とったわ。


 ―――因みに俺は、コミケなるものに行った事はない。ほんまや。


(ビャクはな―――うちが使役「ミケ」っちゅー化身の娘なんやで―――。これから当分―――当家うちで預かる事にしてん―――。宜しゅーしたってや―――)


 ばあちゃんがそう言い終わると、ビャクはピョコンと頭を下げた。

 目の前で繰り広げられる急展開に、俺と利伽は目を白黒させるしかなかった。


「ちょっとー! ウチが挨拶してるっちゅーニョに、そっちは自己紹介もニャいん?」


 言葉も出されへん俺達に、ビャクは唇を尖らせて不満を口にした。


「あ……ああ、俺は不知火龍彦。よ、宜しくな……」


「私は八代利伽言います。よ、宜しく……」


 場の雰囲気に飲まれて何がどーなってるんか解らん俺達を余所に、ばあちゃんとビャクが会話を始めた。


(ビャクには龍彦と利伽ちゃんに―――化身の存在とその力を理解してもらおー思て―――一芝居打ってもらったんやけど―――……ビャクにはまだ荷が重かった―――?)


(な、何言ーてますニャン。ウチはまだまだ、ほ、本気出してませんもん! は……ははは……)


(そうやったんやね―――。最初の方だけチラッと見てたけど―――龍彦に追われて結構必死で逃げてたみたいやったから―――。それやったら―――うちの見間違いやったんかね―――)


(そ、そらー、みそぎ様の、み……見間違いちゃいますかニャ? ウ、ウチが本気だしたら、いくら禊様のお孫様が地脈と接続したから言ーても、そう簡単には捕まりませんニャ。は、ははは……)


(へぇ―――……そら―――……面白いおもろいな―――……)


 ―――ビリビリビリッ!


 ばあちゃんの声にただならぬ霊気が籠って、俺の……俺等の霊体を震わした。

 売り言葉に買い言葉ーなんやろーけど、負けず嫌いなばあちゃんは、なんとかこの生意気な仔猫をやり込めたいらしい。

 ただ、完全に蚊帳の外な俺と利伽は声を挟めんと、ただ聞くだけしか出来んかった。

 ってゆーか少なくとも俺は、金縛りにあったみたいに動かれへん。


(本当ほんまに―――ミケはしゃーない子やな―――……あの子はビャクに―――どんな教育してきたんやろな―――……)


 ―――ビキッ!


 ばあちゃんが、恐らくは狙って言ーたこの言葉で、ビャクのこめかみにはクッキリと青筋が浮かび上がった。

 どうやら“禁句”をばあちゃんが踏んだみたいや。


(ウチはおかんお母さんの力を全て受け継いで来ましたから。みそぎ様のお孫様に後れを取るとは、到底思てません)


 そう答えたビャクには、さっきまでばあちゃんにビビってた感じは全くなくなってた。

 ばあちゃんのプレッシャーも正面から受け止めて、弾き返してる。

 言葉はばあちゃんに対して挑発的やけど、その顔には自信と誇りがありありと浮かんでた。

「ビャク」やなくて「ミケ」を、まるで馬鹿にされた様に感じたんやろな。


 長い沈黙……に感じたんは、何も俺だけやない。利伽もそう感じた筈や。


(フフ……ウフフ―――……ほーんま―――ビャクは可愛いな―――。そんなとこはミケにソックリやで―――)


 沈黙を破ったんはばあちゃん。

 その声にはもう、さっきまでのプレッシャーもない。

 金縛りが解けたように、一気に脱力した俺と……利伽もやな。


(今夜はもー良ーから―――三人でうちの元においで―――)


 確かに今夜は、色々と聞きたい事があるんは確かや。

 俺達三人は互いに顔を見合わせて、ばあちゃんの言葉に同意した事を示すように頷きあった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る