地脈の力

 さっきまでとはまるでちゃう。

 俺の全身を覆ってる霊気は、その質も、量も、桁外れに強いもんとなった。

 俺がそう感じてるだけやない。

 もう隠すんも難しい程、纏ってる霊気は強く、濃く発光してる。


「……タツ……あんた……何があったん……? ……それ……どーなってんの……?」


 恐怖か? 驚愕か? 利伽りかの絞り出したよーな声は震えてた。

 俺はそれに答えんと、ゆっくり化身がおる方へ目を向けた。

 さっきは良ー見な見失いそうやった化身の小さな霊光も、今やったらハッキリ見える。

 これやったら、もう逃がす事もないな。

 そう確信した俺は、まだ不安気な顔で俺を見上げてる利伽の方に目をやった。


「何も問題なかったわ。何か変な女の人とか出てきたけど、接続の承認も貰えたわ」


 俺は利伽を安心させよう思て、ニッと笑ってそう答えた。


「……女の人……? ……承認……?」


 けどそれは、余計に利伽を混乱させるだけやった。

 でも俺には、これ以上簡潔に、要領よく説明すんのは無理や。

 ここは利伽に「百聞は一見に如かず」を実践してもらお。


「“接続の義”、すんねやろ?」


 利伽の呟きには答えんで俺はそう聞いた。

 利伽は答える代わりに、コクコクと首を上下に振った。


「とりあえず、俺はあの化身に仕掛けて・・・・みるわ。お前は儀式に取り掛かるんや。リューヒに宜しくな!」


 そう利伽に告げて、俺は一歩踏み出した……つもりやった。

 けどその一歩がとんでもない!

 凄い勢いで、離れた場所におった化身との差が詰まる。


「ちょ、ちょっとー! タツー! リューヒって何よー! 誰なんー!?」


 すぐに遥か後方になった場所から、すでに声を潜めるんも忘れてる利伽が大声で叫んでいた。





 しかしこの“接続”ってのは本当ほんまに凄い!

 身体能力だけやない。

 感覚も一気に拡大したんや。


 今の俺には不知火山と八代山の全域は勿論、この街の状態も望めばまるで手に取るように解る。

 ちゃうな。

 山とか街とかやなくて、ここの地脈がフォローしてる範囲やったら解るって事なんや。

 知覚が拡大され鋭敏になって、さっきまで視界に収めとくんも大変やった化身の動きは、今はゆっくりにしか見えへん。

 これやったら、捕まえるんも簡単なこっちゃ。


 化身は、突然俺がとんでもないスピードで近づいて来たんにビックリしたんか、慌ててその場から逃げ出した。

 けどその動きも、今の俺にはスローに見える。

 俺は自分の能力を確かめるように、試すように、化身と一定の距離を保って移動し続けた。

 思てた通り、化身は仔猫の様な姿をしてる。

 白くてフワッフワの毛をした、可愛らしい仔猫や。


 ―――まー、体が (俺達には)光って見えるんと、尻尾が二本あるって事を除けばやけどな……。


 やっぱりばあちゃんの言う通り、化身は見た目で判断出来へんのかなー……。

 必死で逃げる仔猫の化身を見ながらそんな事を考えとったら、ハタッとある事に気ーついた。


 ―――で、捕まえてどないするんやろ?


 よー考えたら、そこから先の事は考えてへんかった。

 ばあちゃんには戦え言われたけど……。


 ―――そや! ばあちゃんに聞いたらえーんや!


 俺がそう思い至った時、俺の後方で突如、強力な霊気の高まりが巻き起こった!

 ただ、この霊気から感じられるもんには覚えがある。


 ―――利伽の霊気や。


 利伽も無事、リューヒから接続の承認をもらって地脈と繋がったみたいやな。


 と、思ったら突然、俺の隣に利伽が現れた!


 地脈と接続してまだ間もないのに、利伽はもーその力をコントロールし始めてる。

 ほんま、才能の差ってのは恐ろしい……。

 

「おー、利伽、早かったな」


「……まーね……」


 俺が気軽に掛けた声に、なんでか利伽はご機嫌斜めな声を返してきた。

 あれ? なんかあったんかな?


「どないしてん? リューヒとなんかあったんか?」


 その言葉に、ピクリと反応する利伽。

 どうやら“リューヒ”がNGワードやったみたいや。


「……何でもないし、何にもないわ……あんたこそ、リューヒって人と何も無かったんやろな?」


「はあ? 何かある訳ないやん。向こうに居った時間もちょっとやったし……」


「ほんまかいな……リューヒって人は、そんな事言ーてなかったけどな!」


 ちょっと……リューヒさん……あんた、利伽に何吹き込んだんや……。

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