コネクト

「リューヒ……? フリュークス……?」

 

 どっちも初めて聞く、不思議な響きの言葉やった。

 俺は確認する為に、声に出して (声は出てないけどな)、その言葉を口にした (口からは出てないけどな)。


「はい―――。それで―――貴方は―――?」


「お、俺は不知火龍彦! 十六才! 高校二年……です!」


 改めてこんな綺麗な姉ちゃんに自己紹介なんて、緊張するなんてもんやない。


「じゃー貴方は―――不知火一族なのね―――。それでここには―――何で来たん―――?」


「そ……それは……地脈の力を……」


「も―――ちゃうやん―――。そこはー『歩いてー』とか―――『車でー』って―――言わなあかんやん―――」


 ―――こーゆーとこは、ほんまにばあちゃんそっくりやなー……。


 俺が呆れた視線をリューヒに送ってると、彼女は一つ咳払いをして体裁を整えた。

 意外とオチャメなんかも知れんな。


「ここは貴方が―――地脈の力を使うんに―――値する人物かどうか―――管理者のうちが―――見極める所なんやで―――」


 こ、この人、さっきのやり取りを無かった事にしよーと思てる!

 俺が絶句してると、リューヒは音もなくスーッと俺の目の前までやって来た。

 いきなり美人べっぴんさんのアップを目の当たりにして、俺は完全にフリーズしてもーた。


 ……なんや、良ー匂いがすんなー……。


 そんなん考えとったら、彼女は俺の額に人差し指をソッと当てた。

 彼女の人差し指と俺の額が接触した所が、ポウッと淡い光を放つ。

 固まってされるがままの俺に彼女は一瞬驚いた顔をしたけど、すぐに優しい微笑みに戻った。


「うちがみたところ―――貴方には―――特に問題ないみたいやな―――。貴方の―――地脈への接続権限を―――認めます―――」


「地脈……に接続……?」


 確かばあちゃんもそんな事ゆーてたな。

 凄い力を持ってる地脈に接続して、強力な力を貸していただくとかなんとか……。


「そうやで―――。これで貴方は―――現実の世界で―――地脈に接続する事が―――出来るよーになりました―――」


 何が嬉しいんか、リューヒはパチパチと手を叩いて、一人盛り上がってる。

 摩訶不思議な世界に来た割には、なんやアッサリと地脈利用の許可が下りたな……。

 

「じゃーこれで帰って良ーん?」


 嬉しそうな彼女程スッキリしてない俺は、探るように質問した。


「そやね―――。もー良ーよ―――。ここに来たんは―――今回が初めてやし―――うちが―――送り返したるわな―――」


 そう言ーた彼女が右手を真っ直ぐ上にかざすと、俺の体は後方へと急激に引っ張られた。


「うわっ! なんや!?」


 みるみる内にリューヒと引き離されていく。


「またね―――。これからも―――宜しくね―――」


 また!? これからって何やねん!


 ―――なんや、まだまだ聞きたい事が増えたけど、強制的に送還された俺にはどーしょーもなかった。





 ―――意識が覚醒したんが解る。


 強い集中力で自分の形成した世界から、現実の世界に戻ってきた感覚や。

 修行とか儀式の最中に何回か経験した事のある感覚やけど、実際に異世界へ行くなんて思いもよらんかったわ。

 見たとこ、俺は祝詞を唱え終えた直後位みたいや。

 利伽りかのおる位置も表情も、殆ど変化がない。

 けど、さっきの経験は夢やない。

 それは確信出来る。

 俺は儀式の締めに突入した。


「我、ここに願い欲する! 悠々たる地脈の流れより、我に力を!」


 呪言じゅごんを唱えきった俺の体から、天を突くような光がほとばしった!


「リューヒ! 不知火の地に流れてるっちゅー地脈の力! あるんやったら俺に力を貸さんかい! 接続コネクトー!」


 空へ向かって真っ直ぐに伸びとった俺の霊気が、俺の咆哮に呼応して急激に先端の向きを変えて、そのまま不知火山の斜面に突き刺さった。

 次の瞬間、俺の霊気が強い力を持つ“なんか”にぶち当たり、そのまま結合したんを感じた!

 その途端、とてつもない霊気が俺の中に流れ込んでくる。

 呆然とする俺。

 傍で見てた利伽も、何が起こったんかすぐに理解でけへんみたいやった。

 

 ―――でも、間違いなく実感した。


 ―――俺はこの時、人を超越するだけの力を身につけたって事を。

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