第一幕 初めての……化身?

不知火山と八代山

「「ただいまー」」


 俺と神流は揃って帰宅を告げた。

 俺と神流は、大抵いつも一緒に帰宅する。

 それは別に、何か理由があってって訳やない。


 ―――べ、別に俺がシスコンで、神流がブラコンって訳やないんやからね! ほんまなんやからね!


 ……俺達は毎晩、この神社に古くから伝わる“しきたり”にのっとって、八代家と合同でこの「不知火山しらぬいやま」と隣の「八代山やつしろやま」を一晩中見廻ってる。

 所謂“寝ずの番”ってやつや。


 不知火山と八代山は、古くから神体山しんたいさん、つまり神奈備かんなびの山としてあがめられてきた……らしい。

 流石に現代いまとなってはこの山を崇拝すうはいする人も少なくなったけど、未だに爺さん婆さんの中には足しげく両神社に参拝を続けてる人もおる。

 俺達が十歳になると夜の見廻りをさせられるようになったんも、つまりはその名残っちゅーやつや。

 まーそれはえーねんけど、その理由がなー……。


 ―――この山に侵入しようとする“化身”から守るため……だそーや。


 まーこの六年間、そんな物は見たこともない。

 正直、理由に納得なんかいかへんけど、古い伝統を守っていくって事に反対はない。

 だから今まで続けてきたし、なんや妙な修行やら儀式やらも受け入れてきた。


 それに、利伽と一晩中一緒におるんは悪くなかったからな。


 ―――これがモチベーションになってたっちゅーのは秘密や。トップシークレットや。


 まーつまり、俺と神流が学校のクラブにも所属せず、寄り道もせんと直帰するにはそーゆー訳があるんや。

 俺は昨晩の疲れから、帰って即バタンキュー。

 神流は今晩の準備。

 相手は勿論、真夏や。

 俺達兄妹と利伽の姉弟は、交互に人を出してそれぞれの“御山”を見廻るんや。


 この山は二つの山が重なりあった、奇妙な形をしてる。

 綺麗な三角錐の形をした山で、全高百五十メートル、直径二百メートル。

 とても山と呼べるもんやない。

 言うなれば丘……か?

 それが、まるでラクダのこぶみたいに隣り合って、しかも山裾やますその一部が重なるように繋がってる。

 この不思議な形も、昔の人には信仰の対象やったんやろーけど……。


 ―――これ、どーみても“おっぱい”やんな……。


 まー実際子供の頃はそれでよー冷やかされたわ。

 今では懐かしい思い出やけどな。

 兎も角、裾野で繋がってるから、境界線がない。

 だから合同での見廻りなんや。


 で、この山からは何やら「地脈」なるエネルギーが溢れ出る……らしい。

 それも伝え聞いた話やから、ほんまのところは分からん。


 ―――……けど。


 ―――実際におる「生き証人」見たら、信じるもなんもないやろ?

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