みどり変わりゆく11月のこと-2
「あーあ、終わっちゃったなぁ。」
朱里が残念そうにため息をつく。あたりは皆片付けに追われ、徐々にいつもの姿を取り戻しつつあった。
「喋ってないで、片付け。」
紫苑が言い捨てて歩いていく。背が高いと大変そうね。あちこちの担当に引っ張りだこだ。
そこへ白斗が通りかかって指示を置いていった。実行委員に頼まれたらしい。朱里と白斗は紫苑の手伝い。私は…、青真と文化祭にかかった費用の総括。当然といえば当然の配置なのだけれど、今の私には誰かが悪しき意図を組んだように思えてならない。でも、やるしかないわよね。
「青真、私たちはあっちみたいよ。行こう。」
青真は一言「うん」と答えて私につづいた。
場所を変えて空き教室に入り、仕事を始めても、青真は私に対してただの一言も言わない。私はとうとうしびれを切らした。まったく今日の私は私らしくないわ。
「ねぇ、青真。あなた朝からどうしたの?らしくないわよ。」
「うん…。」
「うん、て。だから何よ?青真のことだから何かがあったんだなってことくらいお見通しよ?話してみなさいよ、ねぇ。」
はっきりとしない青真に、自分のモヤモヤが重なってきていよいよ我慢の限界に到達しそうになったその時、青真がようやく口を開いた。
「嫌だったんだよ。」
「え、何が?」
「嫌だったんだ、あんな格好して翠がみんなの前に出るなんて。」
「え、どうして?大体朱里だって同じ格好していたのに。確かに私も着ていて恥ずかしかったけれど…。あ、やっぱり私には似合っていなかったから…。」
「そうじゃなくて!そっちじゃない。分かってないよ、翠は…。あんな、か、可愛い格好して表へ出て…。気が気じゃなかった。ナンパだってされていたじゃないか。紫苑が追い払ってくれていたけど。俺だってかわいいって言いたかったのに、俺が言う前に白斗は簡単に言っちまうし…。」
「え、ど、どういうことよ、青真。落ち着いて?ね?」
一気にまくし立てる青真に私の思考はついて行けなかった。
「…妬いてたんだよ。かわいい格好してみんなの前に出て…。」
「そ、そんなこと!誰も私なんてそんなに気にしてないわよ。一体どうしたの?大体朱里の方が…。」
「朱里とは話が違う。翠だから、俺は…。」
「なんでそんな…。」
「なんでって俺は!翠のことが…。」
「山科さーん、葉山ーっ。」
クラスメイトから呼ばれた声にはっとして、そしてもう一度青真を見た。青真はどうやら我に返ったな状態の顔をしてどこかを見ている。私は青真の話の続きを聞こうとして青真に話しかけたけれど、青真は顔を真っ赤にして走って行ってしまった。しっかり終えた帳簿を持っていくところは青真らしいけれど、なんなのよ…。
「翠ーっ?」
朱里が入り口からひょっこり顔を出した。
「どうしたの?青真、すごい勢いで走って行ったけど。」
「えっとね。」
私は事の顛末を朱里に話した。
「え、それで?翠はどう思ってるの?」
「どうって…。どうも何も青真が話の途中で走って行ってしまったし…。」
「え!気づいてないの⁉︎」
「だから何をよ?」
困惑する私の横を、青真を連れた紫苑が通りかかる。
「青真っ!どういうことっ⁉︎あー!モヤモヤするっ。」
次は青真に食いつく朱里をなだめる紫苑をよそに、私は私を見ようとしない青真から目が離せなかった。さっきの青真の言葉を思い出す。あんなの、まるで、まるで…。
「あれ?翠?顔、赤いよ?」
「え…?」
ありえない、図々しい考えに至ってしまった。本当に今日の私は私らしくないわ。
「な、なんでもない!先に戻るわね。」
そう言って校舎内を歩く途中、窓ガラスに映る自分の顔を見ると、学校の隅にある季節遅れに染まった紅葉のような色をしていた。
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