青き月光に照らされる10月のこと-1


10月に入ると、学校中が一気に文化祭モードへと染まっていった。

ほんの1、2週間前の体育祭のお祭り騒ぎはどこへ行ったんだろう。今やそれぞれのクラスが思い思いのものにせっせと取り組んでいた。


自然と帰りが遅くなる。この期間だけは先生の許しがあって、いつもより長く学校にいることができるんだ。


とは言っても、さすがに遅く暗い時間まで女子を残すのはよくない。

委員長の提案で女子は定時に帰宅。残った男どもで力仕事に勤しんでいた。


この1、2週間は翠と朱里と帰ることがなくなった。

白斗と紫苑、その2人だけと帰ることができるこの機会を無駄にはできない。あいつらに話したいことがある、そう言ってからもう数週間経つんだ。


自然といつも5人一緒にいるから、なかなかチャンスがなかった。翠と朱里の前じゃあ話せないんだよな。



「よし、今日はこんくらいで終わろうぜ。」


文化祭実行委員の声で今日の準備は終わった。あちこちから開放感に浸る声が聞こえてきた。

でも俺にとってはここからが本番。ここからやっと俺の時間が始まる。


「紫苑、白斗。今日の帰りだけどさ、この間の話…いいかな。」


おそるおそる切り出した俺だけど、2人とも待っていたよと言わんばかりの雰囲気を背に


「おう!」

「おう。」


と快く応じてくれた。



その帰り道、大きな月の明かりの下、俺は白斗と紫苑と歩いていた。白斗の家の方へ行くよと言ったけど、その提案は白斗に却下されてしまった。


「あのさ、えっと、あの…。」


なかなか思うように言葉が出ない。

だいぶ長い時間が経ったように思って辺りを見渡しても、まだそこは学校からすぐの場所で大した時間は経過していなかった。


こんなにも勇気がいるものなのかと改めて思った。俺は少し驚いていた。2人に話すのにこんなに言葉が出てこないなんて、めったにないことだった。


「あの…さ。」


また言葉に詰まりそうな自分がいた。

いいかげんにしろ。自分に叱咤を飛ばし、なんとか一言目を口にした。


「翠は、俺のこと、少しは気にしてくれてんのかな。」


多くの疑問と、ほんの、ほんの少しの可能性から確かめたい気持ちとが入り混じった言葉だった。

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