紫の夕空に想う8月のこと


「暑い…。」

時節柄残暑と言われる日付にもかかわらず、夕方になれども暑いものは暑い。ヒグラシの声が響く学校からの帰り道を、俺は何故か1人で歩いていた。


みんなで海へ行った帰りだった。

夏休み前の朱里の提案という名の命令により、俺は青真、朱里、翠、白斗と海へ行っていた。


暑かった。こんな日は家で大人しくしていればいいものを…。

でも、まぁ、青真のためなら、一肌ぬいでやらなきゃな。


そう思って、半ば乗り気じゃないが付いて行ったんだ。

まぁ、それなりに、楽しかった。

1番楽しんでたのが朱里だったのが、あいつらしいところだ。


本来一緒に帰っているはずだった。なのに、今俺は1人でいる。別に1人でいるのが嫌いなわけじゃない、むしろ好きだが今日ばかりは気にくわない。


補習のプリントを取りに来い、と家に連絡があったらしい。取りに行ったら、ついでにと朱里の分まで渡された。それなら、はじめから2人呼び出せよ。


暮れてきた空がだいぶ茜がかってきた。紫と茜のグラデーション。あいつらと帰るときは、誰かが声をあげそうなほど綺麗だ。


「柄にもないことを…。」


イヤホンを片耳につけ、音楽を流す。

その時後ろから声がかかった。


「紫苑!」


青真だった。


「どうした?」

俺の問いに、

「ちゃんと2人は帰したよ。みんなでワイワイした後に、紫苑1人で学校って寂しすぎるだろ。」

そう笑いながら答える。

まったく、お人好しなやつだ。


2人並んで歩く。そういえば、こうすることも久しぶりだ。


「お前、相変わらず口数少ないよな。だから、今日も朱里に怒涛の勢いで追い立てられてただろ。たまにはガツンと言えよ?」

「…悪いか?」

「悪くなんかないよ、それも紫苑だ。ただなぁ、朱里はつけあがるからなぁ…。」

「いつものことだろう。」

「まぁ、なんだかんだそれも楽しいよな!」


俺の少ない口数でも、口にしない言葉まで汲み取ってくれる。青真はできたやつだ。なのに、なんで自分のことになると鈍感なんだろうな。


「青真。もっと自分のこと考えろよ。周りのことばかり考えて自分が損するようなことばかりすんな。」


突然の俺の言葉にきょとんとしている。

お人好しの青真だ。今回くらいは俺らが頑張ってやらなきゃな。


「え、紫苑、なんだよ急に。おいっ。」

「別に、そのままだよ。」


自分のことになると鈍い2人だ。

俺たちが夏前から仕掛けていることにも気づいているのかどうなのか。


まぁ最終的にあいつらが笑っていればそれでいい。


夏の空はまだまだ明るかった。

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