三月を知らない
さいとし
第1話 三月を知らない
春休みの学校。誰もいない教室の隅で女の子が眠っている。四月になると彼女は目を覚まして、教室に一番乗りした一年生として、クラスに溶け込む。友達はあっという間に増える。男子も女子も、皆が彼女に惹きつけられる。誰もが、桜吹雪に目を奪われずにいられないように。
球技大会、中間テストを経て、夏休みへ。部活で登校する生徒たちは、彼女が校舎の中でうろついて、色々なクラブに参加しているのに出会う。朝練のメンバーよりも早くからグラウンドで走り、一年生の片付け当番よりも遅くまでモップがけを続ける。他に誰もいないプールでゆっくりと泳ぐ彼女を見つけ、当直の教師が注意しに向かっても、残っているのは渡り廊下へ続く小さな足跡だけ。
秋のテストが終わり、生徒たちが進級を気にし始めるころから、彼女の動きが鈍くなる。ぼんやりとしていることが多くなり、あの活発さは影を潜める。そんなアンニュイな雰囲気が一時期男子にモテるが、やがて皆の注目は彼女に向かなくなる。文化祭の出店巡りでも、誰も彼女を誘わない。
年が明けてしばらくすると、皆は彼女が教室にいることすら忘れてしまう。
終業式が終わり、生徒たちが荷物を手にして教室を立ち去る時、彼女だけは残る。教室の隅に向かい、カーディガンを羽織って丸くなる。そして一ヶ月の間、ゆっくりと眠る。
三月を知らない さいとし @Cythocy
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