第3話 高校生活の始まり

 四月。今日は神戸山手高校の入学式。ユウキは今日から高校生となった。その頃、高校ではどのサークルも新入生勧誘に必死になっていた。ユウキは特にやりたいこともなく足早に帰ろうとしたが、昔使っていたジャグリング道具と、ショップで見た女の子が気になるせいか、ジャグリングが頭から離れなかった。

 その頃、同じく新入生のアカリはミライと入学式で知り合った友人ミチルとカナと一緒にサークル探しをしていた。ミチル達は軽音学部を希望していた。夜ご飯を一緒に食べようという約束をし、二人は軽音学部のサークルを見に行くといいそこで別れた。

「こっち見ていかない?」

元気のいい勧誘をさらりとかわしながら、アカリはどんどんと前にすすんだ。するとどんなサークルに誘われても見向きもしなかったアカリが、急に立ち止った。そこはジャグリングサークルの前だった。ジャグリングはまだ認知度も低く、必死に勧誘しても新入生はほとんど来ないため、勧誘するほうもあきらめかけているように見えた。また、少し暗い感じな人が多いうえ、女子部員はシホしかいなく少し寂しい感じがした雰囲気だった。しかし、新入生を目の前に、サークルの三年生でキャプテンのシホはすぐさま声をかけてきた。

「君達新入生? ジャグリングに興味あるの?」 

アカリは自信ありげに

「ええ」

と軽く返事をし、

「クラブ貸してもらっていいですか?」

と上目遣いで尋ねた。

一瞬、アカリの目を見て、

「いいわよ」

シホは後輩に合図し、クラブをアカリに手渡した。

「ありがとうございます」

 クラブを貸してもらうとすぐに左手を高々と上に上げポーズをとった。全員がアカリのほうを見て、一瞬、空気が止まったかと思うと、すぐさまパフォーマンスを始めた。桜の木の下で、長身で顔立ちもよいアカリのパフォーマンスは、その場の空気をガラリと変えた。まるでクラブ一本一本が意志を持ち、規則正しく動いているようだった。その美しく完璧なパフォーマンスに

「パチパチパチッ」

 自然と手拍手がおこった。普段は一人で黙々と練習するようなサークルであったが、この時ばかりは見違えるように大歓声を上げた。女の人がジャグリングに興味があるだけでも信じられないことなのに、ましてやあんなきれいな女の子が入部してくれたらと期待が高まった。凄い……、校舎の隅から見ていたユウキは、あの時ショップにいた女の子だと一瞬で分かった。同じ高校だったんだ。暫く見ていたというよりも、見とれていたという感じだったが、関係ないかと思い、結局入部の決意ができないままその場を一人立ち去った。

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