思春期のわたし
市伍 鳥助
あまり意味の無い空虚な自分語り
大学一年生というのは、人生の節目の一つだと思う。ひとによっては親元を離れ、生まれ育った町を離れ、自分ひとりのちからで闘っていくのだ。
わたしは今、高校三年生。大学受験を間近に控えた、受験生。
志望校はそれなりにレベルの高いところへ。自分の学力ならさほど難しくはないだろう。しかし…。
「んー、どうしたものか志望動機が見当たらない!」
手に持っていたペンを置く。
「はは!いやはや京子クン!志望動機がないのに志望校が決まってるとは一体どういうことなのよ!」
「いやあ友美子どん、わたしは今の時代が産み落としてしまったドリームレスな暗黒児だぜ?お先真っ暗、夢も希望も持ち合わせてはおらんのさぁ〜」
「暗ww黒www児wwwww」
隣にいる友美子と軽口を叩きながら、手元にある志望動機の調査票を見つめる。
「まったくどうしてこんなものがあるのやら」
ため息が出てしまう。ほんとになんで動機をわざわざ聞かれなければいけないのか。
「京子にとっては最大の敵かもねー。何かに理由を見つけるのが、昔から苦手なだったもん」
「さっすがわたしの幼馴染み!よくわかってる!そうなのよねー。適当に決めちゃったから、理由なんて特にないのよねー」
しかしこの志望動機の調査票、学校側が何を意図しているのかわからないことに「特に理由なんてないわうっふん」とか書いてしまえば生徒指導室での愉快なティータイムにお呼ばれしてしまうのだ。あーおそろしおそろし。
「まあまあ理由なんてでっち上げればいいのよ。ほんとのところは京子にしかわかんないわけだしさ!」
「うーん、そうなんだけどー…どうも浮かばないのよねー。やっぱ理由のでっち上げは友美子に任せるぜ!」
「くっ!イイ笑顔でなんてクズ発言…!京子、恐ろしいコ…!」
「ふっそう褒めるな。というかもうそろそろ下校だし手っ取り早く決めちゃって!ほら!ほら!」
友美子を催促する。わたしは勉強はできてもそういうことは苦手なのだ、うむ。
「…じゃあ、就職に有利だから!でいいんじゃない?」
「それだ!どうしてわたしはそこに気づかなかったのだろう…!大学のあとは就職だもんね!そりゃ理由になるに決まってる!」
「うんうん!じゃあさっさと提出して、帰りにアイス買って食おうぜ?」
「いいねーいいねー!食っちゃおうか!」
そうしてわたしは志望動機の調査票を先生に提出して友美子と一緒に家路についた。
「…ねーえ、京子ー?」「なにー?」「もうそろそろ目を逸らすのはやめない?」「…」「ほら、もう京子も高校三年生じゃん。いつまでもそんなのじゃあダメだよぉ?」「…わかってる」「ほんとに?」「ほんとよ」「…じゃあ私はもういかないと」「…うん」「京子はできる子なんだから、理由も自分で考えてね」「…うん、がんばってみる」「それじゃあグッバイまた来世!いつかまた会えるといいね!」「バイバイ、友美子」
やっぱり大学一年生は人生の節目の一つだった。自分で考え、自分で動き、自分で結果を出す。その上自己完結だけでは終われない、大人の階段を上り出したのだ。
一年前のわたしは変な幻を見ていたような気がする。ぼんやりとしか覚えていないけど、そんな気がする。
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