第80話 不機嫌なシューティングスター


 真っ暗な運転席コクピット

 浮かび上がる計器類メーターパネル


 数値が上がっていくエンジン回転計タコメーター

 路面から伝わる不快な震動バイブレーション


 身体が震えているのは 車の震動のせいじゃない

 

 午前三時の首都高速湾岸線ハイウェイ

 一筋の流星シューティングスターに姿を変えた 銀色のクーペ


 寝静まった TDR

 ひっそりとした 有明コロシアム

 ぼんやりと浮かぶ レインボーブリッジ


 次々と置き去りになる 思い出の景色

 目の前には 東京港トンネルがポッカリと口を開ける


 ルームミラーに映る オレンジ色のアタシ

 濡れた髪にスッピンの顔は 他人ひとに見せられる代物ではない


 ――誰のせいよ――


 やり場の無い怒りが口をつく


 半年前 夜の横浜で出会ったアイツ

 三ヶ月前 TDRの近くでいっしょに暮らすようになった


 でも 最近ギクシャクしているのがわかる

 

 羽田空港ビッグバードを横目に エンジンは危険領域レッドゾーン

 心と身体は限界突破オーバーリミット


 ベイブリッジを目の当たりにした瞬間

 溢れ出した思い出たちメモリーズ


 ――バカ――


 アイツの幻に発した言葉

 同時に アタシ自身に向けた言葉


 バッグの中のスマホが鳴る

 誰からなのかすぐにわかる


 ――何よ。今さら――


 心の声を発したとき 耳に届いたアイツの言葉

 途切れ途切れのメッセージ


 「……独リニ ナリタクナイ」


 フロントグラスの向こうがぼやけて見えた

 まるで海の底を走っているみたいに


 なぜかって? 

 同じこと考えてたから。アタシも。


 アクセルを踏む右足から力が抜けていく

 一筋の流星シューティングスターはただのクーペに戻っていく


 大黒PAパーキングエリアに向かってハンドルを切った

 サイドブレーキを引いて電話をかけた


 スマホの向こうには 寂しそうなアイツがいた


 ――憶えてる? 初めて横浜ここでキスした日のこと――


 宇宙そらを仰ぎながらアタシは囁くように言う

 頬を撫でる潮風がアタシの涙をぬぐ

 

 ――待っていて。キスは独りじゃできないから――



 RAY

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