第79話 クリック


 仲良くなったのは 

 きっと 彼女の作品にとても共感できたから


 いつからか「ちゃん付け」で呼び合うようになった

 彼女とも彼女の作品とも ずっと付き合える気がした


 あるとき 「ちゃん」が「様」になった

 

 彼女の顔がかすんで見えた

 互いの距離が途方もなく遠く思えた

 

 思い当たる節はあった

 勝手に誤解をして嫌なことを言った


 誠心誠意謝った 許してもらえたと思った

 でも それはボクの勘違い


 後で気づいた

 彼女のフォローが消えていることに


 すべては過去形になっていた

 

 彼女の名前の横にある「フォロー中」の文字にカーソルを置く

 ボクからのフォローも解除すべきだと思った


 嫌われているのにフォローなんて いい迷惑

 それは ストーカーみたいなもの


 一度クリックすれば彼女の名前は消える

 一秒あれば終わる とても簡単なこと


 でも できなかった 


 「ありがとう」

 「フォローさせて」

 「すごく素敵な作品」

 「これからもずっと読ませて」


 過去形になった言葉たちが脳内を飛び交う

 ボクが想像した 彼女の笑顔といっしょに


 ボクにはクリックできない

 他人になるためのクリックなんて

 

 パソコンの画面が滲んで見えた

 

 マウスを持つ手をゆっくりと画面へ伸ばす

 震える指先で彼女の名前をクリックした


 いつか届くことを祈りながら



 RAY

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