ジェラシー


 ジェラシー

 これは恋愛だけに当てはまるものではありません。


 ものすごい作品に触れた時、賞賛を送ると同時に腹わたがじれるくらいの重い、暗い感情が渦巻きます。その正体のわからない、どうしようもない衝動をボクはジェラシーと呼んでいます。

 アニメだと、細田守の『サマーウォーズ』とか、マンガだと『ジョジョの奇妙な冒険』なんかは、崇拝に値する思いを抱きながら、どこかカラダの奥では、

「なんで、こんな作品を生み出せないんだ~」みたいな、収まりのつかない感情に打ち震えます。

 作家を目指しているのに、本からジェラシーを感じることは数少ない気がします。何度かはあったと思うのですが、強烈に覚えてるのは無いですね。

 強いてあげれば、隆慶一郎先生とか、山田風太郎先生でしょうか。

 もしかしたら、歳を重ねることでこの気持もだいぶ錆びついているのかもしれないです。


 なんて、冷静を装う日々の中、久々にココロを鷲掴みに、いや、えぐり取られるような作品にぶつかってしまいました。それは


 シン・ゴジラ


 正直、庵野秀明にはエヴアンゲリヲンで失望していました。

 この人はお話をたたむ能力が無い人ではないのか……


 はるか昔に夢中になった『不思議な海のナディア』は爽快にラストを締めくくりました。明日の分からない状況だった自分に、こんな凄い作品が世の中にはあるのだよと突きつけられ衝撃を受けました。


 この監督はヤルぞ!


 あの頃、庵野監督の次回作をどんなにココロ待ちしたことか……

 田舎に住んでいたボクには、監督の次回作をリアルタイムでみることは叶いませんでした。音楽関連の仕事に携わりたくて、意を決して田舎を後にし、神奈川県の友達の家に転がり込みます。

 貯めていた微々たる貯金と、若さだけで何とかその日暮らしを綱渡りのように乗り切り、一人暮らしをすることが出来ました。

 そして、登戸に借りた1Kの狭い部屋で見たテレビ東京の深夜のエヴァンゲリオンの再放送を見て打ちのめされました。


 な、なんじゃこりゃ~~~~~~ 


 お腹から血が出ている訳ではありませんが、お腹の中から「なぜボクはこの監督じゃないんだ」というモヤモヤした感情が絶えず湧き上がります。むさぼるように再放送を毎晩見て、新宿コマ劇場に映画も見に行きました。自分の中では完結してなくてもエヴァはこの時点で大満足だったのです。

 それが、新作『エヴァンゲリヲン』の制作、待てど暮らせど出来上がらない続編、出来たと思った作品はドンドン軌道から外れていく印象で……

 破でたたんだほうが、良かったんじゃね? みたいな思いで、次を待つ気持ちも薄れ、庵野監督自体にだんだんと期待しなくなったのはしょうが無いことなのでしょうか。

 作品でその人が評価されるのはクリエイターの宿命でしょう。あの頃の庵野監督には魅力を感じられず、声優さえやってしまう(風立ちぬ、見に行きました)節操の無さに呆れ返る始末でした。

 そんな監督がエヴァのお話をたたむこともせず、始めた寄り道のような作品。

 どこか、上から目線で、「やらなきゃいけないことを置き去りに、撮った映画をちょっと評価してあげましょうか」みたいな気持ちがあったのは否めません。


 そして、2時間近くの映画を見終わったボクには、久々に腹のそこに渦巻く、あの何ともいえない感情を感じたのです。

 ジェラシーとしかいえない、クリエイターとしての格の違いを見せつけられる負け犬感。

 何の作品も形にしていない自己嫌悪。

 なんで、この人にはこんな作品を形にする能力があるのかと悔しく思う挫折感。

 のたうち回る気分でした。

 具体的にこのジェラシーを表現しているのが『アオイホノオ』という島本和彦先生が描いたマンガがあるので、読んだことが無い人は1度読んでみてください。

 ほぼ、ボクの気持ちも代弁していただいてます。


 いつか、庵野監督から受けたこの気持を、自分の作品を創作し、別の誰かに感じさせてやりたい! ジェラシーを覚えてもらう程の作品を生み出せるなんて、クリエイター冥利に尽きます。

 そのためにも、作品を書き上げることのできる自分でありたい。

 胸を張れる作品を書き上げたいと切に思う今日このごろなのであります。




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