30 戦いを終えて

 中年親父が連行されたあと俺達は屋上で小善氏を探した。


 だが見つからない。俺達が玄武の解体をしている間に移動してしまっているようだった。仕方がないので俺達はそのまま下の街へと降りる。


 カーヴェルさん及び聡理さんとは、ここでそのまま別れることになった。


「弟子入りするっつったって、すぐ荷物をまとめる訳にはいかないだろうからね。あたしの家はパンネが知ってるから、落ち着いたら二人で一緒にきな。まあその前に、パーティー会場でまた会うことにはなるだろうがね」


 そう言ってカーヴェルさんは去って行った。


 続いて聡理さんとも別れる。聡理さんからは名刺を渡してもらった。


「本当は小善さんの名刺を渡したかったんですけど、今は私ので我慢してくださいね。パーティー会場にはちゃんと小善さんにも名刺を持って来るように伝えておきますから。あー……でも小善さん、本当にどこ行っちゃったんだろう。一人で迷子になってなければいいんだけど」


 そう言って聡理さんは小善氏を探して街の中へと消えた。なんというか……小善氏が迷子老人扱いされている気がする。


 小善氏は要介護なのか。聡理さんから介護を受けているのか。二人が一体どういう関係なのか、俺は少しの間色々と考えてしまった。



「さてと、それじゃあわたくし達も行きますわよ。アイシスさんも、もう意識は戻っているはずですわ」


 エレーニアに促され、俺達は一度未開領域管理局へと向かう。アイシスさん達にも戦いの結果は伝える必要があるからな。



◆ ◆ ◆ ◆ ◆



 負傷者運搬用の仮設ゲートなどを経由して、俺達は管理局へと到着した。


 アイシスさんの意識は戻っていたが、まだ魔力切れの症状が抜け切れてはいないようだった。


 アイシスさんが戦いの途中で脱落したことを謝って来る。だが対神獣戦の結果は既に聞いていたようで、顔には安心感のようなものも漂っていた。


「……薙阿津さんは、私が意識を失う直前に『神獣は俺が倒すから安心して休んでろ』って言ったのを覚えていますか?」


「ああ、一応な。……覚えてはいる」


 あの時はアイシスさんを安心させたい一心で恥ずかしい台詞を言ってしまった気がする。その言葉をアイシスさんはばっちり覚えていたようだ。


「……あの言葉を聞いたときは、薙阿津さんが本当に神獣を倒してしまうなんて、私は思ってもいませんでした。それでも、あの言葉だけでも私はすごく嬉しかったんですよ。それなのに……本当に、言葉通りに神獣まで倒してしまったんですね。薙阿津さん……かっこよすぎです」


 そこまで言って、アイシスさんはまた眠り初めてしまった。


 褒められすぎて俺は物凄く恥ずかしくなってしまう。他のメンバーの視線も痛いように感じたので、シンに軽く挨拶してそのままアイシスさんの病室を出た。



◆ ◆ ◆ ◆ ◆



 続いてゲネスさんの病室も訪ねる。そこで俺達はやっとで太郎さんと合流した。


 話を聞くと、太郎さんと二人のEXランク、ハッカ・ガイナーに 時雨しぐれ 時昌ときまさ はもう一つの街に配置されていたのだそうだ。


 前線となっていた三つの街の内一つは玄武によって壊されていた。あの最後の戦いでは、残った二つの街におよそ均等に戦力を割り振っていたということらしい。


 ちなみに残る最後のEXランク、天笠あまがさ センにいたってはニムルス首都に待機していたとのこと。こっちはもしもの時、二つの街どちらにも救援にいけるよう準備していたとのことだ。


 軍の配置は、最低限度の筋は通っているようにも見える。だが屋上での話を聞いた後では……玄武を銃火器のみで倒すために、意図的にEXランクを最前線に集めない人員配置が行われていたように感じてしまう。



 俺達が見聞きした話は太郎さんにも伝えた。


「僕にも思う所はある。でも戦場では、全てが綺麗ごとでは済まないのも確かだろう。国連上層部も一枚岩と言うわけでもない。上層部にだって、僕が尊敬できる人間は何人もいる。まあ彼らも……上で苦労しているようではあるけどね。……国連にも黒い面があるのを理解した上で、僕は自分が出来る範囲で最善を尽くそうと思っているよ」


 太郎さんは思ったより大人の反応を示した。EXランクの人間として、これまでにもこういう場面には遭遇していたのかも知れない。


 その上で自分がどう生きて行くのか、太郎さんは模索しているようだった。



 この辺りの話はゲネスさんにも話したが、おおよそ太郎さんと同じ反応だった。


「そういう類の話なら、被召喚者捜索部の任務においてもよくあることさ。未開領域内への捜索が実質禁止されてることなども含めてね。だが上の連中も、みんながみんな人の感情がないわけじゃないさ。まあ……これから君達が戦い続ければ、この世界のありようも色々と見ていくことになるだろう。だが今はそれよりも、君達はあの神獣・玄武を倒したんだ。それは間違いなく誇っていい。素直に勝利を喜ぶのも英雄の務めだ」


 ゲネスさんの言葉を聞き、俺もそうだなと思い直す。この世界にも問題はあるようだが、今は考えるべき時ではないだろう。


 ここは素直に喜ぶべきところだ。



 気を取り直して、俺達は異人会へと帰った。



◆ ◆ ◆ ◆ ◆



 異人会に戻った俺達は、心配してロビーまで来ていた綾ちゃんと合流する。ここでは、みんな素直に互いの無事を喜びあった。


 その後は風呂に入ったり、食堂で食事を取ったりして体を休ませる。異人会にも俺達の活躍は伝わっていたので色々大変だったりはしたが。


 食堂の人もいつもより豪華な食事を用意してくれたりと、全体的には嬉しいことが多かった。



 そうして、一日があっという間に過ぎていく。



 終わってみれば、今回の対神獣戦は約半日という驚くほど短い時間で決着した。これは今までの対神獣戦でもっとも早い決着だったそうだ。


 人類が受けた人的被害もこれまでで最少に抑えられたという話だ。


 これはやはり、この戦いに参加した全員がベストを尽くした結果だと俺は思う。



 俺は、一つ大きなことをやり遂げた充実感に満たされぐっすりと眠った。

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