27 ソウルイーター・魂を喰らう一撃
「心意気は買ってやるよ坊や。だがあんたの魔力量じゃ、こいつを撃つのはとうてい無理だ。だから――」
ソウルイーターを撃つことを願い出た俺に、カーヴェルさんは無慈悲に答えた。
ソウルイーター、魂を喰らう魔法銃。その名が伊達じゃないというのは俺も話には聞いている。
天才的魔道具の作り手が生み出した奇跡の銃。だが名刀に呪われた武具があるように、このソウルイーターもまた、呪いとでも呼べる性質を備えていた。
だがそれは呪いというより、単純にその設計思想に問題があったのだが。ソウルイーターは確かに撃てれば世界最強の威力を発揮するが、必要とする魔力量が多すぎる欠陥銃だったのだ。
幾度かの改造が加えられ、最大三人の魔力を合算して撃てる仕様なども追加されたそうだが、それでもこの銃を扱える猛者は現れなかった。
もちろんその間、挑戦する人間が誰もいなかったわけではない。だがこの銃は、挑戦者のリスクも限りなく高い代物だった。挑戦する者が端から魔力切れで倒れていったのだ。
そうしていつしか挑戦者が現れなくなった頃、この欠陥銃は、
だがそう呼ばれるようになってしばらく、当時から銃火器を扱う傭兵として名を馳せていたカーヴェル・ソサディアがその存在を耳にする。
そして傭兵カーヴェルの手により初めてこの銃は真の力を発揮することとなり、今日に至るというわけだ。
このソウルイーターに魔力を吸い尽くされた人間には、複数のSランク能力者も含まれていた。
その銃を未だAランクである俺に撃てないというのは、カーヴェルさんに言われずとも俺だって分かっていることだった。
だが――
「それでも、撃たなきゃただやられるだけだ! 例え魔力を使い果たして死んだとしても、俺は絶対に玄武を――」
ここまで言った所でカーヴェルさんが話をさえぎる。
「そんな死に体で撃ったって、あたし以上の威力が出せるわけないだろうがこのあほたれが。それにねぇ、あたしゃあんたに撃つなとは一言も言ってないよ。準備するからまずは構えな」
そう言ってカーヴェルさんは俺にソウルイーターを手渡してくる。俺は言われるままにこの化物銃を玄武へと向けいつもの膝撃ちの姿勢で構えた。
構えるだけで、物凄い勢いで魔力を吸われる感覚がある。
確かにカーヴェルさんの言う通り仮に撃てたとしても、撃つのに魔力を使いすぎて強化に回す魔力がなければ、そもそも俺が撃つ意味がない。
そんな俺の様子を見つつ、カーヴェルさんは手際よくソウルイーターを操作し、銃の形態を変化させた。
「こいつはバカな魔道士が作ったアホみたいな魔法銃でね。最初の仕様が間違ってるってのにそれをなんとか押し通そうとして、ただの銃なのに最大三人で撃てるっていうアホな仕様があるんだよ。結局それでも使いこなす人間は現れなかったし、唯一使いこなしたあたしは一人で撃てるっていう、間抜けなオチまでついてんだがね。まさかその仕様を……こんな形で使うことになるとは夢にも思わなかったよ」
そう話つつ、カーヴェルさんはソウルイーターの横から飛び出した取っ手の一つを掴む。
「こいつを撃つのに必要な魔力は全部あたしが出してやる。そうすりゃ撃つためにあんたの魔力を削る必要はなくなるさ。その上であんたのユニークスキルの力、乗せれるもんなら乗せてみやがれってんだよ」
カーヴェルさんがソウルイーターへと魔力を送る。
勢いよく吸い込まれそうだった魔力の流れが止まった。むしろ逆に、カーヴェルさんの魔力が逆流して俺に流れて来るようにすら感じる。
だがこれで、銃撃強化に全ての魔力をつぎ込める。
「玄武も最期の一撃に全てを込めるつもりのようだが、今にもビームが飛んできそうだよ。こっちもぐずぐずやってるヒマはない。しっかり集中しなよ!」
カーヴェルさんが発破をかけてくる。もちろん、俺も全ての力をこの一瞬につぎ込むつもりだ。
「じゃあやるよ。――《弾体加速フィールド生成》――《銃身展開、フルバレル》」
カーヴェルさんの操作に合わせて、ソウルイーターの銃身の周りに魔方陣で構築された一周り大きな疑似銃身が生成される。そしてその疑似銃身が前方へと大きくスライドし、元の銃身の二倍もの長さの銃身を形づくった。
ソウルイーターの元々の長さは対物ライフルよりも短かったが、疑似銃身を合わせた長さは対物ライフルよりも五割ほど長くなっている。
「こいつがソウルイーターの正体さ。火薬と魔導加速とを併用したハイブリッドガン。これで準備は完了だ。あとはあんた次第だよ。銃撃強化能力もプラスして、トリプルハイブリッドといこうじゃないか」
カーヴェルさんに促され俺は魔力を集中させる。
ソウルイーターは普通の銃というよりも、むしろレールガン等に近かった。それに銃撃強化能力がきちんと乗るのか不安もあったが、それ自体は問題なかった。
どうやら俺が銃と認識さえ出来れば能力はきちんと乗るようだ。さすがは原理が分からないのが特徴のユニークスキルと言うところか。
だが、単純に魔力が足りない。
俺が今の魔力量で撃つには対物ライフルが丁度良かった。だが普通に市販されてる魔法銃なら、全力を出せば一発くらいは撃てただろう。
しかしこいつは、世界最強の魔法銃なのだ。
銃撃強化を乗せるだけでも、対物ライフルより最低二段階は難易度が高い。魔力切れになる全力まで魔力を注ぎ込んでも、それでもなお魔力が足りない。
そう考える内にも、魔力を消費してさらに力が足りなくなる。
いっそこのまま撃つべきか。
俺の方が死に体だろうとも、カーヴェルさんの魔力はきちんと乗っているのだ。これでカーヴェルさん一人で撃つよりも少しでも強くなってるなら――
そう思った瞬間、俺は急に体が軽くなったように感じた。
気付くとカーヴェルさんの反対側、ソウルイーターから伸びるもう一つの取っ手を緋月が掴んでいた。
「この銃は最大三人で撃てるのだろう? なら私も混ぜろ。私だって銃撃強化能力は持っているのだ。貴様の負担を、多少受け持つくらいなら私にだって出来るさ」
緋月の言葉を聞き、俺は魔力的にだけでなく、精神的にも楽になるのを感じた。
改めて、ソウルイーターに魔力を乗せる。
俺、緋月、カーヴェルさん。この銃には、三人の魔力が入り乱れている。だが不思議と、違和感は全くなかった。
カーヴェルさんはアホな仕様だと言っていたが、三人で撃てるというこの仕様。その性能も、高いレベルで完成されているのがよく分かる。
俺は奇妙な高揚感すら感じつつ、目標となる玄武へと視線を向けた。そこで玄武と視線がぶつかる。
――この距離で?
理性では、そんなわけがないという思いもある。だがもっと本能的な部分で、俺は奴と目が合ったと確信する。
玄武は既に、ビームの発射準備を終えていた。もしかすると、奴はもっと早くビームを撃てたのかも知れない。
……こっちの準備が整うのを待っていたのか?
この思いも、理性はそんなわけがないと否定する。だが俺の本能は、そうなのだと強く告げていた。
思えば夜明け前の戦いでも、玄武は俺ばかり狙ってビームを撃ってきやがった。俺が撃った対物ライフルも、奴には相当痛かったんだろうな。
それに玄武は――もうどうあがいても助からない。
そのことは、奴自身が一番理解しているだろう。それでも死ぬ前に、最期の一撃を放たずにはいられないのだ。
そして最期の一撃だからこそ、もう一度この俺に向けて、真正面から撃ちたいのだろう。
まったく迷惑な話だぜ。
でもな玄武。
お前もさんざん色んな攻撃受けて、はらわた煮えくり返ってはいるんだろう。だけどな、はらわた煮えくり返ってんのはお前だけじゃねぇんだぜ。
俺だってビームやら甲羅やらで、一度は死ぬ覚悟までさせられたんだ。それに……人だって大勢殺されている。
俺だって、ただ終わらせるつもりは最初からないんだよ。例えお前がほっといても死ぬ重傷だとしても、その上からさらに止めを刺してやる。
行くぜ亀野郎。正真正銘、これが最後の撃ち合いだ。
そうして、俺はソウルイーターの引き金を引いた。玄武も同時にビームを放ってくる。
玄武の最期のビーム攻撃は、薙ぎ払いではなかった。一直線に、あきらかに俺をめがけてビームが飛んでくる。
やっぱりな。玄武の野郎……本当に俺を狙っていやがった。
本当は、奴がビームを放つ前に仕留めるのがベストだったんだがな。でもいざこうなった今、俺はこれで良かったと思っていた。
撃たれる前に倒すなんて、そんなせこい真似、俺だってしたいとは思ってねぇ。真正面からぶつかって、ビームごとてめぇのどたまぶち抜いてやるぜ。
こうして俺達の放った銃弾と、玄武のビームが中間地点で接触する。
そしてソウルイーターから放たれた銃撃は、玄武のビームを引き裂いた。そのままビームの中を突っ切って玄武の口へと着弾する。
玄武の異常な硬度を誇る魔法障壁も何もないかのように突き破り、そのまま、玄武の巨体をも貫き通した。
玄武の口から、最期の雄たけびがこだましてくる。
こうしてこの日、俺達は神獣・玄武を倒すことに成功した。
そしてこの日から俺とカーヴェルさん、ついでに緋月は、『神獣殺し』と呼ばれることとなる。
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