05 異世界人協会(異人会)

 俺はそのままヘリにのってこの国の首都へと連れていかれた。


 この国、ニムルス国の首都の大きさは東京都と同じくらいはあるだろうか。その広大な都市の周りを巨大な壁がぐるりと囲んでいる。


 そしてその中の都市は――未来的な感じだった。白を基調とし、中に緑が点在する清潔感のある街並み。文明的にも二一世紀の日本と比べて見劣りはしないように感じた。



 ヘリはそのまま異世界人協会という施設の屋上に着陸する。屋上にヘリポートがある時点で既に中世っぽい感じではないが、予想通りビルの中にはきちんと電気も通っているようで、中は電灯で明かりが灯されていた。


「たくさんの日本人が来るまではこの世界の文明は地球の中世レベルだったらしいんだけどね。それももう昔の話よ! 百年近く前からこの世界には多くの地球人達が飛ばされてきているの。その人達がもたらした恩恵もあって今ではこの世界の文明レベルはほとんど地球と変わらないそうよ」


 金髪のウサ耳少女こと佐藤 パンネがこの世界について色々と教えてくれた。


 まず、この世界には俺のように飛ばされてきた人間が何人もいる。百年あまりの長期間にわたって召喚され続けているそうだ。


 そうして飛ばされて来た地球人の知識と努力によって、今のこの世界は地球に近い水準まで文明を発展させているという話だ。


 そしてこれまでに飛ばされて来た地球人の総数――約十万。年間で言えば毎年千人近くの人間がこの世界へと飛ばされてくるそうだ。


 当然この世界では召喚は大きな社会問題となっている。そこで組織されたのが異世界人協会という組織だそうだ。異世界人協会というのは被召喚者を保護するための組織らしい。



 ヘリからこっちに来るまでに聞いた話はだいたいこんな感じだ。まだ分からないことだらけだがそれはおいおい説明を受けられるとのこと。しばらく俺はこの異世界人協会の中で生活することになるそうだ。


「そんなに心配しなくても大丈夫よ。私もこの異人会の職員みたいなもんだし。それに異人会の中には薙阿津みたく飛ばされた他の人達もいるしね」


 正直そんなに心配はしていない。むしろここまで被召喚者対策がしっかりしていることに驚くくらいだ。それだけこの世界での召喚は日常的なこととなっているのだろう。


「あ、それと……薙阿津の着てる服って高校の制服よね? なんて高校なの?」


「ん? 一応 清流山せいりゅうざん 高校っていうとこだけど、知ってんのか?」


 俺が日本のどの高校か聞いていも意味がない気がするんだが。だがそれを聞いたパンネの反応は劇的だった。


「ホントに? あ、ううん……やっぱり、なのかな? どっちでもいいわ! とにかく薙阿津に会わせたい人がいるのよ! あ、ちょうど向こうでご飯食べてるわ。ご一緒させてもらいましょう!」


 そんな感じで無理やり食堂へと連れて行かれた。随分と強引な奴だ。というか何も考えてないなコイツ。だが……パンネが会わせたいという少女の姿を見て俺は全てを理解した。



 その少女は年は俺と同じくらい。栗色のショートヘアで眼鏡をかけた大人しそうな印象の少女だ。そして彼女の着ている服は――俺と同じ、清流山高校の制服だった。


「おはよう綾ちゃん、ちゃんと元気してる?」


 パンネが気さくに声をかけつつ綾と呼ばれた少女の隣に座る。俺もパンネの向かい側、眼鏡少女の斜め向かいに座った。


 この綾という少女は初対面の俺を見て警戒しているようだ。だが彼女の方も俺が同じ高校の人間だということには気づいたようだ。


「あの……あなたは?」


「俺は捧 薙阿津、清流山高校の一年生だ。今日この世界に飛ばされてきたばかりで分からないことだらけだけどな。そういうあんたも清流山の生徒だよな?」


「はい。私は……一年一組の 村重むらしげ あや といいます。薙阿津さんは……確か三組の人でしたよね」


 向こうは俺のことを知っていたようだ。俺は高校では結構有名人だったからな。


 理由はもちろん一つしかない。一カ月近くとは言えアホな同好会作りに参加してしまったせいさ!


「やっぱり俺のことは知ってたみたいだな。『異世界研究会』なんてアホな同好会作ろうとして、今は本当に異世界に飛ばされちまったすごい奴になっちまったが。君みたいに好きでもなく飛ばされた人から見れば嫌な奴にしか見えないだろうけど」


「いえそんな……。ただ、飛ばされて来たのは薙阿津さんだけ……なんですか?」


 村重 綾の反応はちょっと予想外だった。俺が異世界に飛ばされて来たことを驚くより、むしろもっと飛ばされるべき人間が足りないって顔をしている……ような。


 彼女は一年一組だと言っていた。それは、俺がよく知る人物と同じクラスでもある。


「緋月ちゃん。その……神園 緋月は、一緒じゃないんですか?」


 そう――言われた。緋月は本物の中二病だったからな。俺が有名になってしまった元凶とも言えるわけで、当然俺以上に有名人だった。


 だが俺がいるならあいつもいるはずだと思われてるのはどうもな。まあ飛ばされる直前には確かに一緒にいたわけだが。


「残念だけど、あいつはこの世界には来ていない。……この世界に飛ばされる直前には一緒にいたんだけどな。しかも向こうは異世界に行く準備万端で。だが皮肉というか何と言うか……なぜか俺だけがこの世界に飛ばされてきてしまった」


 綾ちゃんが寂しそうな顔をする。だがその中にも嬉しさというか、複雑な感情が混ざっているようにも見えた。


「そうですか。でも……やっぱり緋月ちゃんは、私のこと、探そうとしてくれていたんですね」


 その一言に俺は衝撃を受ける。今まで疑問にも思わなかった小さな違和感が繋がったような感じだ。


 神園 緋月。あいつは近くで行方不明者が出ていると言っていた。間違いなくそれはこの村重 綾のことだろう。そしてあいつのあまりに重装備な対異世界装備。


 さすが本物の中二病は違うと感心していたがそれでも重装備すぎた。あいつには確信があったんだ。


「もしかしてだけど、君がこの世界に飛ばされた時――」


「はい、その時――緋月ちゃんも、私と一緒でした。彼女は私を助けようとしてくれたけど、突然のことで、私も彼女も混乱してて、結局、私だけが」


 どうやら俺の時と同じような状況だったらしい。それにしても神園 緋月……。二回も召喚場面に遭遇しながら自分は飛ばされなかった憐れな女よ。


 うちの高校から二人も被召喚者がいるというのに学校で一番異世界に行きたがっていただろうあいつは召喚されないとか。


 なんというか、あいつはそういう星の元にでも生まれついているのだろうか。

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