03 魔法の仕様
ウサ耳少女はわずか五秒でキモい魚をミンチにした。マシンガンの攻撃自体は地球で見るのと同じだ。
だが撃たれた魚の方はなかなかにファンタジーな感じだった。弾丸が当たる度に小さな魔方陣のような物が光っていたのだ。
そして魚は四秒近くマシンガンの猛攻を耐えた。まあ耐えただけで何もできはしなかったが。
四秒たった後にその魔方陣が消える。その後は一瞬だ。今までの硬さが嘘のように魚は細切れの肉片へと変わった。
「ふふんっ。私にかかればこんなもんよね!」
「色々とすげぇな……」
様々な出来事が起きすぎて正直言葉が出ない。
「でもサケマグロにしては固い魔法障壁だったわね」
「魔法障壁って言うのは、さっきの光ってたやつのことか?」
気になったので聞いてみた。
「そうよ。この世界の生き物ならみんな持ってるわ。もちろんあなたももう持ってるわよ。手とかに一発撃って試してみる?」
「いやいい」
ウサ耳少女怖いわ。
だが魔法障壁は強そうだ。身体能力が上がっているのは確認したが防御力も上がっているようだな。銃撃程度なら多少食らっても大丈夫なんだろう。
「魔法障壁があるって言っても攻撃する側も武器に魔力を込められるから、剣とかだと障壁ごと斬られたりもしちゃんだけどね」
銃撃は大丈夫でも剣で斬られるのはやばいのか。身体能力が上がっている時点で攻撃力が上がっているとも言えるしな。攻撃力、防御力、敏捷性……その辺がこの世界では全体的に上がるのだろう。
相対的に銃火器の威力は落ちると。この世界の銃使いは不遇職なのかも知れない。目の前のウサ耳少女は不遇職ということか。
それ以前に銃があるのも驚きだが。まだこの世界の世界観が良くつかめない。銃があるなら中世っぽい世界ではなくもっとゲームっぽい世界な気がするな。そうなるとまずは彼女の能力が気になる。
「なああんた。さっき空中からマシンガン出してたけど、あれってアイテムボックスみたいな奴か? 俺にも使えるなら使い方教えてほしいんだけど」
「うーん……。どう言えばいいのかな……」
アイテムボックスと言えば異世界に転移したらまず欲しい能力の一つだ。これがこの世界の標準能力なら俺にも使えるだろうし使い方を教えてもらおうと思ったのだが。
「これ、実は私だけのユニークスキルなのよね。日本から来た人達がアイテムボックスだって言うから私もそう呼んでるけど。悪いけど覚えようとして覚えられる物じゃないわよ」
どうやらアイテムボックスが誰でも使えたりするほどゲーム的な世界ではないようだ。
「そうね……ヘリが戻ってくるまでちょっと時間もあるし、せっかくだから基本だけは説明しとこっか」
少女が空中から一冊の本を取り出す。『初心者でも分かる魔法基礎講座』と日本語で書かれた本を手渡された。
本を見つつウサ耳少女にこの世界の魔法について説明してもう。魔法というか魔力全般についてだったが。
要約すると以下の三つになる。
一・身体能力
この世界の人間は元から身体能力が高く、召喚された人間もこの世界に来た時点で自動的に身体能力が高くなる。
これはこの世界に満ちている魔力の影響によるそうだ。まあこれについては自分でも実験して確認済みだ。
二・魔法障壁
この世界の生き物は全てが生まれつき魔法障壁というバリアのような物を持っており、召喚された人間もこの世界に来た時点で自動的に魔法障壁が発生する。
これも魔力の影響によるそうだ。この世界の人間は二階から落ちたくらいでは怪我もしないらしい。
三・特殊能力
魔法もこれに含まれる。基本的な魔法については修行すれば大抵覚えられるとのこと。ただし得て不得手はあるので適性を確認の上覚えた方がいいらしい。
そして特殊能力については、基本的な魔法の他に世界で一人しか使えないような特殊な能力を覚えることがあるそうだ。
それがユニークスキル。
ウサ耳少女のアイテムボックスはこれに該当するそうだ。つまり頑張っても適性がなければ覚えることは不可能であると。
「まあこんなところね。特殊能力については本当に感覚的なものだから、私も上手く説明はできないわ。ある日急にできるようになったって感じかな。なんていうか……何かが降りてきたみたいな感じよ!」
ずいぶんとアナログな感じのようだ。
「あ、それと剣とかは普通に使えるはずよ。こっちは持った時点で剣先まで魔力が行くからね。あなた結構魔力がありそうだから、サケマグロくらいなら障壁ごと肉を切り裂けるはずよ!」
物理攻撃もいけるのか。しかも四秒近くマシンガンに耐えた魔法障壁を突破できるようだ。とするとあの魚実はザコなのか? ならわざわざマシンガン使う必要もなかったんじゃ……。
「なあ、もしかしてマシンガン撃つよりもナイフで刺した方が簡単――」
「おっと。銃火器の悪口はノーサンキューよ。確かに魔法強化ができない銃火器は弱い人の護身用って見方が一般的だわ。でもマシンガンくらいになれば魔物倒すのに十分な威力も発揮できるし、接近しないで倒せるならそれに越したことはないでしょ? それにマシンガンの方が派手だし!」
どうやら派手という理由だけでこの少女はマシンガンを使っていたらしい。やはりこの世界における銃火器の立場は不遇なようだ。そしてこのウサ耳少女は特に銃使いということもなかった。
アイテムボックスがこの少女のオリジナル能力だとすると箱使いか? ……あんまり戦闘向きじゃないな。アイテムボックス自体はすごいが能力がそれしかないと戦闘は大変そうだ。
「他にも聞きたいことはあると思うけどそれは異人会についてからね。向こうにはあなたと同じ第一世代の日本人も多いからその人達から話を聞くのも――」
話の途中でウサ耳少女の顔が険しくなる。その理由を察して俺は後ろを振り返った。
キモい魚の援軍が来ている。
数は――十匹以上か。
「まずいわね、ちょっと油断しすぎたわ!」
ウサ耳少女の表情が険しい。
「なあ、ヘリはまだなのか」
「ええ、ヘリも止まってると落とされることがあるからね。大きめに周回して戻ってくる手筈なんだけど……」
ヘリ自体はすぐに来るみたいだ、だがキモい魚が来る方が早い。
「……仕方ないわね」
少女が決意のこもった声でつぶやく。
「あなたはもうちょっと後ろに下がってて。ヘリが戻ってくる時には下からロープが下がってるからそれに飛びついて。あなたの身体能力も上がってるからできるはずよ」
この状態でヘリが着陸することはないようだ。というか止まるとヘリが落とされると言ってたから最初からこの方法で回収する予定だったのだろう。
ヘリから垂れたロープに飛びつくのは問題ないはずだ。俺の身体能力が上がっているのはすでに確認済みだからな。だから俺は大丈夫なんだが……。
「お前はどうすんだよ!」
「もちろん、ヘリが来るまでサケマグロの相手するに決まってるでしょ。あ、それと一丁だけ銃を渡しておくわ。あくまで護身用だけど、もしもの時の足止めくらいにはなるはずよ」
「ああ」
俺は少女から銃を受け取った。だが……後ろに下がる気にはなれない。
あの魚は本当に硬い。マシンガンと言っても無限に弾数があるわけじゃないのだ。あと二匹も倒せば弾倉を交換する必要があるはず。その間に少女は確実に囲まれてしまう。
俺が渡された拳銃は論外として、マシンガンでもあの数と戦うのはまずそうだ。不安げに見ていると、少女はマシンガンを空中に戻した。他にもっと有効な手があるのか。
「これで減ってくれるといいんだけど……」
次にウサ耳少女が空中から取り出したのは――手榴弾だ。それを魚に向けて次々と投げつけていく。コントロールもいいようで全弾直撃だ。
至近距離で次々と手榴弾が爆発していく。だが――
「やっぱり、一発だけじゃ死なないのよね」
魔法障壁というのは本当に強いらしい。二、三発連続で手榴弾を食らった魚は吹っ飛んだが、ほとんど数も減らずに魚の群れがこちらへと近づいてくる。
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