愛の治療

蒼井 ひな

第1話 二人の出会い


私は、医学部に通う大学4年生の蕗谷あこ。今日はうちの医科大学の付属病院で、医学部生を対象にした見学会があってここに来た。

けど・・・・・・


「やっぱりいつ来ても大きな病院で、迷子になっちゃいそう」

あこは見慣れているものの、大きさにびっくりし、ボソッと言葉がこぼれた。


『ねぇ、そこの君!真ん中に立たれたら邪魔なんだけど・・・』


唖然としていると、後ろから誰かに声かけられた。

(綺麗な声・・・どんな人?)

そう思い、あこは振り向いて言う。


「あ!ごめんなさい・・・その・・・ついボーッとしてしまって。」

『謝罪とかいいから、早くどいてくれる?その先の手術室に用があるんだけど?』

そう言われ、周りを見渡した。この先生と複数の看護師さん・・・そしてストレッチャーに乗った患者さんがいる。

「あっ!ほんとにごめんなさいっ!」

慌てて、道を開け、深く頭を下げた。

さり際に昌臣が耳元で囁いた。

『2時間で終わるから、待ってて?話がある』

「えっ・・・あ・・・わかりました」


(私に話って?でもいっか。見学会もその時間に終わるし)

私は昌臣が見えなくなるまで姿を追った。



"今日の見学会にお越しの方はこちらへどうぞ"


彼が手術室へ入ってすぐ、見学会の担当の人が招集をかけた。

あこはその場へ行き、すべてのフロアの見学、ナースステーション、手術室、病棟など、見て回った。

見学会はあっという間に終わった。

ロビーで休んでいると、昌臣が向こうから歩いてきた。


『遅くなってすまない、待ったか?』

「いえ、今来たところです。話って・・・何でしょう?」

『その事なんだが・・・ここでは話しにくい。移動しよう』

そう言われて、昌臣の後へついていくと、たどり着いたのは会議室。

『はい、どうぞ』

昌臣はドアを開け、私が入るのを見て後から自分も中へ入った。


ガチャっ・・・

昌臣は鍵をかけた。


(えっ、なんで鍵をかけるんだろう・・・何かあるの?)


『ここに座って・・・』

と、椅子を引いてくれた。

「失礼します・・・」

あこはおそるおそる座った。

昌臣は私の前に立ち話を始めた。

『いきなり呼び出して悪い。実は前からお前に目をつけていた。医学部に優秀な女が居ると・・・聞いて。』

「はぁ・・・私の事ですけど・・・でもどうして?」

『簡潔に言う。お前、ここに就職しろ』

「え、なんて?・・・」

『ここに就職しろと言った』

「えぇー!なんで私が・・・」

『さっきも言ったが、お前が優秀だからだ。優秀なお前が俺には・・・いや病院に必要だ』

「はぁ、そういう事ですか・・・」

『どうする?もちろんくるだろう?直々に誘っているんだ、面接など試験はない。』

「でも・・・」

私には就職したい病院が他にあった。でも、こわなステキな話は他にない。

『断るつもりか?まぁ、断っても俺の力でお前1人ここへ連れてくることは簡単だ。俺は時期院長になる男、人事の担当は任されている。』


(そうなんだ・・・そんなに偉い人なんだ)


「そう・・・なんですね。わかりました、そのお誘い受けます」

『ありがとう。・・・でも今日のは看護師の卵としてどうなんだ?』


あこは午前中の出来事を思い出した。


〜回想〜


『ねぇ、そこの君!真ん中に立たれたら邪魔なんだけど・・・』

真ん中に立っていて注意された。



あこは思い出し・・・

「あ!あの時は本当にすみませんでした!!」

あこは深く頭を下げた。

昌臣はあこのそばへ寄っていき、いきなり顎に手をかけ上にあげ、言い放った。

『考えたらわかる事・・・お前は自覚がないな。ここへ就職するのなら看護師としての自覚と俺の"妻"になる自覚を教えこまないとな』

「えっ!つ、妻!?何の話だか・・・わかりません。聞いてません!」

『それもそうだろう。あの時決めた事だ。安心しろ院長・・・父には話してある。』

「そんなこと言われても・・・」

『お前に拒否権はないぞ?さぁ、今からお勉強だな。』

昌臣は不敵な笑を浮かべあこを見つめ、ものすごい気迫てあこを壁際へと追いやった。


この日から私は毎日授業の終に病院へ寄り、いろいろと・・・教えこまれた。昌臣と過ごす時間も多くなり、私はどんどん彼を好きになっていった。

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