最終話 窓を開けて

『窓を開けて外を見て』


気のせい?幻聴?

いや、これが幻聴なら今まで俺が耳にしていた妖精さんの声も幻聴か…。

あまりにも良いタイミングで声をかけられたので少し動揺する。

やっぱりメルヘンランドの住人だから俺の心とか読めたりするのかな。


『外を見てってば!』


妖精さんの声に促されベッドから起き上がる。

そして網戸を開けて窓から身を乗り出してみた。


「あ…美穂さん?え?」


そこにいたのは、いつものふわふわした服じゃなくてTシャツにハーフパンツというラフな姿で、髪をいつものポニーテールより低い位置でひとつにまとめた

美穂さんだった。

やっぱり妖精さんは美穂さんだった?でも隣の家?不法侵入?大丈夫?

ファンタジー世界の住人は法律とか疎いだろうしな…。


「ちがうちがう!私が妖精のふりをしてたの!」


「俺の心を読んだ!?」


「電話での話し声が聞こえてたから…。私、夜ベランダで読書するのが趣味だから…その…声が聞こえて…」


美穂さんは目を伏せて申し訳なさそうにそう言った。


「ごめんなさい…すぐバラすつもりだったんだけど…良一君が、妖精の存在をすごい信じてたから言い難くて…」


なるほど。

夢を守ってくれてたのか。少し胸が痛い。中学生の時の俺が考えた最強の魔法ノートが発見された時くらいつらい。


「なーんだ妖精を呼び出すのは失敗してたのか。なんとなくそうじゃないかって思ってたんだよね。まじで。」


自分の言葉ながら説得力がない。

とにかく話を流したくて言葉をまくしたてる。恥ずかしい。


「でもすごい偶然だよね? 同じ術?っていうの?それ知ってないとあなたの望みはなんですかとか聞けないもんね」


「え?私が気が付いたのは「妖精さん彼女ってどうやって作れますか?」ってマジヤバな声が突然聞こえてきて、どんな

 マジヤバな奴が隣にいるのか見てみたくなったからってだけで、術?とかメルヘンなことは知らないよ?」


「まじやばなやつ…」


マジヤバな奴という言葉に言葉を失う俺。

そうだよな。マジヤバだよな。妖精さんって声に出しちゃうし、妖精を信じてる高校生だもんな。


「で、でも…実際会ったら案外ちゃんとしてて、話をしてても面白くて…その…いいなって…」


俺があまりにも落ち込んでいたのがわかったのか、美穂さんは慌ててフォローの言葉を投げかけてくれた。

田中に負けないくらいいい人だ。


「フォローありがとう…俺も実はビッチなんじゃね?とか言ってごめんね」


「私が悪乗りしちゃったのもいけないから…。あのね…よければ連絡先好感しない?

 私、明後日地元に帰るから…良一くんと話せなくなるの寂しいなって…」


二つ返事でOKした。

そうだよなー彼女が欲しいって願い叶えようとしてくれていた妖精さんが、実は実在の女の子だったってことは…


つまり


俺に好意があるというか、なんなら好きってことだもんね!

妖精さんを信じるアレな男子高校生でも!


「まずはお友達からよろしくね?」


「心を読まれた!?」


「良一くん、顔に出すぎなのよ」


美穂さんは思わず吹き出すと、電話番号を書いたメモを渡してくれた。

すぐにメモに書かれた電話番号にかけなおして俺と美穂さんは連絡先を交換した。


お母さん以外の女性の電話番号!尊い。


もう夜も遅いので美穂さんは家の中へ戻っていった。

彼女を見送った後俺も部屋に乗り出していた体をひっこめ、窓を閉めた。


さて、寝るか!

心のもやもやがすっきりした!

勢いよく体を伸ばした俺は、ふと窓辺の花瓶に目がいった。


そういえば、百合の花って水もろくに替えないで枯れないものなのか?

窓辺に飾ってある百合の花が風もないのに揺れた気がした。

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