第6話 後悔しかない
それから2週間は、正直楽しかった。
一応、毎晩決まった時間に窓を開けて妖精さんに感謝のお祈りをしてた…っていっても手を合わせて目を閉じるだけなんだけど。
毎日ではないけど、美穂さんと約束した前の日あたりには妖精さんが新しいアドバイスを話しかけて来てくれたし、本当に魔法なんじゃないかってくらい美穂さんとの話は盛り上がった。
あと、毎回なんか服がかわいいし、いい匂いがした。女の子はすごい。
でも、俺なんかにこんなに優しくしてくれる女の子、何か裏があるのでは。
どうしても思い浮かんでくる疑問。
タイミングが悪かったんだ。
きっと別の日だったら、こんなことは言わない。
寝て、起きて、笑ってくれる美穂さんのことをみればそんなことは思わなかった。はず。
妖精さんといつも通り世間話の練習をしていた時に、俺はやってしまった。
「でもさ、仲良くなったはいいけど、やっぱり人間の女の子って実は腹黒いとか、ビッチとかありそうじゃん?
妖精さんが人間とかになって俺と付き合ってくれたほうが安心というか、信用できるっていうかー」
そう、最悪な発言だって今ならわかる。
でも、この時の俺は何も考えてなかった。
突然バンッとポルターガイストみたいな音がして声が聞こえなくなった。
怒らせてしまった…そう思った時には遅かった。
そして、妖精さんと喧嘩をしてから美穂さんと図書館ですれ違っても露骨に避けられるようになった。
最悪としか言えない。
そこで俺はやっと気が付いた。
自分がしてしまったことが、どんなに妖精さんのことを傷つけてしまったのかも理解した。
美穂さんが実は、妖精さんが人間に姿を変えた存在だったんだ。
そう考えると、合点がいくことが多い。
一目ぼれをした俺という人間のことを知るために、1日しか話せないはずのルールを捻じ曲げてたくさん話を聞いてくれたんじゃないかって…。
妖精の魔法を使って、俺の理想の女の子として現世に現れたんじゃないかって。
だから、本来は見えるはずの姿も見えないで声だけ俺の部屋に来ていた。
そうだとしたら、妖精のほうがいいなんて言ってしまった俺は、なんて最悪なんだ…。
妖精さんはあんなにかわいい俺好みの姿になってくれたのに。
後悔しかない。
もやもやと数日間悩んで、誰かにどうしても話したくて田中に電話した。
夜風に当たりたいのもあったけど、怒って気が済んだ妖精さんがたまたま部屋に来て反省してる俺の声を耳に入れてくれないかなって希望もあって窓、をあけて電話をしたんだ。
田中まじいいやつ。
「妖精さんを呼び出して恋愛相談してたんだけど妖精さんが女の子に変身してな…」
なんて発言から始まる控えめに言っても若干お薬や通院が必要なのではみたいな俺の話を最後まで聞いてくれた。
「これからは妖精じゃなくて、俺に恋愛相談しろ。な?」
話し終えた後の田中の言葉に優しさを感じた。
すごい声が真剣だった。
アレな人扱いしてこないし、田中はいいやつだ。
「ありがとな。今度何か奢るわ」
「おう!ハーゲンダッツでいいからな」
高校生にはなかなか手が出ない高級アイスを頼みやがって。
仕方ない。洋服に相談にも乗ってくれてるからな。次の登校日の帰りにでも奢ってやろう。
電話を切った後、ベッドに寝転ぶ。
最近は夜風に乗って部屋に運ばれてくる雑音も心地よくなってきた。
隣の家の騒音も最初は煩かったけど、慣れてしまったら心地がいいと感じるようになってきた。
夏が終わればまた、静かな夜になるんだろうな。そう思うと少し寂しいかもしれない。
「はぁ…本当に悪いことしたな。もう妖精さんは来てくれないのかー謝りてえー」
半ばやけになって、後悔を体の外に出すように少し大きめの声を出す。
返事が返ってくることは期待してなかった。
俺が家に閉じこもってたのもあるけど、美穂さんにも会えなくなったし。
連絡先聞いてたら謝れたかな…でも美穂さんが妖精だったらきっと無理だよなー。
『窓を開けて外を見て』
大きなため息をついた時だった。
少し前までは、よく聞いていた小さな声が聞こえた。
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