60:送別会
マリアの送別会に対する気合の入れようは半端ではなかった。
テーブルの花瓶に色とりどりの花を活け、皆で飾りを作ってリビングを華やかに飾りつけた。
前のときもここまではしていなかったのだが、今日のマリアは一味違った。
まるでそうすることが自分の使命だといわんばかりで、背中に炎の幻影が見えるほどだった。
「今度こそ本当に明日から一人になるから、彼女も寂しいのかもしれないな」
昴がそう言ったので納得し、皆も彼女の理想通りの送別会ができるように協力した。
そして、リビングの飾り付けがすっかり終わった夕方。
「ではサラダを作りましょうか。私はドレッシングを作りますので、キサキ様はそこにある野菜を水洗いして皿に盛り付けてください」
「はーい」
マリアは豪勢な夕食を作ると決めたらしく、張り切って作業していた。
流し台に身体を預けて片足で立ち、鼻歌を歌いながら瓶を取り上げ、ボールに入れる。さらに調味料や油を追加。
ドレッシング作りが終わったら、傍らに積んだじゃがいもを手にとって皮むき。ポテトサラダも作るらしい。
次は何をすると頭の中で計画が組みあがっているらしく、その手つきにはよどみがなかった。
さすが50年もの間メイドとして働いていただけのことはある。
料理、裁縫、掃除、なんでもござれだ。
家庭菜園や家畜の世話までしているのだから、まさに万能メイドである。
「手伝おうか? することないし」
昴がのれんをくぐって顔を覗かせた。
「気持ちだけありがたく受け取っておきますわ。スバル様はどうぞリビングで休んでいてください」
マリアは爽やかに笑顔で断った。
「そうよ。怪我人はおとなしく座ってなさい」
希咲はびしっと人差し指でリビングを差し、「帰れ」と言外に告げた。
「希咲だって怪我しただろ」
「重症度が違うでしょ。私は三日で直ったもの。いいから、ここは私たちに任せて待ってなさいってば。それとも力ずくで追い返されたい?」
「……はーい」
両手を胸の横で動かしてみせると、昴は渋々といった様子で引き下がった。
彼がリビングに座ったのを確認して、ため息をつく。
「もー、完治してないくせに、あいつはなんでああなのかしら。余計なことに気を回してないで休んでればいいのに。手伝われるよりも早く全快してくれたほうが嬉しいのにさ」
「うふふ。キサキ様は本当にスバル様のことが大好きなんですねぇ」
続いて野菜の皮を剥きながら、マリアがにこにこ顔で聞き捨てならないことを口にした。
「へっ!? いや、違うのよ!? 言ったでしょ、あいつが怪我をしたのは私たちのせいなんだから、早く治ってくれないと責任感じちゃうのよ! あいつのためじゃなくて私のために治ってほしいの!」
「うふふふふふふ。青春ですわねー」
「……もういいわよ」
何を言っても無駄だと悟り、頬を膨らませて洗った野菜の水を切る。
できるだけ見栄えが良くなるよう、一口サイズに切った野菜をふんわり盛る。
(うん、おいしそう)
ミニトマトの配置も完璧。
満足してから皿を離れた場所に置き、今度は揚げ物に取り掛かる。
鳥のから揚げはリュカの好物なので欠かせないとはマリアの弁。
半分ドラゴンの血を引いているせいか、リュカは肉料理が好きだった。
中でも好きなのが鳥の唐揚げとハンバーグ。
確かこれらは子どもの好きなおかずベスト10に入ったような気がする。
「キサキ様とスバル様は同じ学校に通うことでお知り合いになったんですよね。どんな学校なんですか?」
「どんなって言われてもね……普通の進学校よ。といっても、難関大学の進学率が高くて全国でも有名だったりするけど」
ちょっぴり自慢も含めてみると、マリアは感心したようだった。
「では成績が優秀な方が集まる学校なんですねぇ。スバル様は新入生代表挨拶、とやらをしたんでしょう? 一番頭が良くないとできないとか」
「……そうよ。私は頭がいいと言われてたし、実際その評価に見合うだけの努力をしてきたつもりよ。入試だって間違えたのは全教科合わせても数問だったし、新入生代表は私以外の誰がするのって思ってた……なのに、壇上に立ったのはあいつなの。その悔しさがわかる? あいつは入学したときから私のライバルだったわ。同じクラスになって、あいつを意識しない日はなかった……まあ、過去の話だけどね。いまはもう、あいつは本当に凄い奴だって認めてるもの。ていうか、認めざるを得ないわ」
衣をつけた鶏肉を油に投入し、揚がるのを待ちながら肩を竦める。
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