第七章  平成大阪夏の陣  姫巫女流編

 藍は自分の部屋に戻り、大阪へ行く準備をしていた。

( 勝てるのかしら? )

 彼女は不安だった。

 前回は無我夢中で戦っていたので、不安など感じている余裕はなかったが、今回は違う。様々な情報を考え合わせると、ある意味で小山舞は源斎以上に手強いような気がした。

「迷っていても始まらないわ。とにかく、私にできることをするだけ」

 藍は思い直し、リュックサックを右肩にかけ、部屋を出た。

「大阪に着いたら、京都の分家とすぐに合流しろ」

 仁斎が言った。藍は不思議に思って、

「京都で落ち合った方がいいんじゃないの?」

「舞の本拠は大阪だ。大阪で事を構えることになるはず。だからそれでいい」

「そう」

 藍はバイクに跨がり、エンジンをかけた。仁斎が、

「お前、雅と会ったのか?」

 しかし、ヘルメットとエンジンの爆音のせいで、藍にはその声が聞こえなかった。

「何? 何か言った?」

 仁斎はしかし、

「いや。気をつけてな」

「ええ」

 藍はバイクをスタートさせ、小野神社を離れた。

「藍。雅と会ってはならん。奴はまだ黄泉の汚れを落とし切っておらんのだ」

 仁斎は呟いた。しかし彼には藍の雅に対する気持ちがわかっていたので、雅のことを非難できなかった。


 その雅は、武智と別れ、根の堅州国にいた。根の堅州国は無限の広さを持つ異空間である。そのため、別の術者が同時に根の堅州国に入っても、決して出会うことはないのだ。だから根の堅州国に逃げられると、追いかけようがないのである。

「舞と隆慶は、秀吉封じの結界が破れていないことを認めた。だとすると、連中の最初の狙いは大阪ではなく、京都か」

 雅はスーッと現世に戻った。そこは京都の街の中の、東大路と七条通が交わる、智積院の前であった。道を歩いていた観光客達は、雅が突然現れたので、仰天したようだったが、何かのパフォーマンスだとでも思ったのか、それほど気にも留めずにまた歩き出した。雅はそんな観光客達の反応に苦笑し、智積院を見やった。

( この寺院は、秀吉に焼き討ちにされた根来大伝法院の一院だ。秀吉封じには持って来いの存在だな )

 そして彼は北へ向かって歩き出し、次に阿弥陀が峰への道を隔てた北に位置する妙法院の前に来た。

( そして妙法院は秀吉の『つひのすみか』である豊国廟を破却し、豊臣家再興に引導を渡した存在だ )

 雅は西の方を見て、

( この二つの寺は、秀吉が葬られている阿弥陀が峰の出入り口を霊的に塞いでいるのか )

 そして、

「二つの寺が秀吉封じの結界の一つなら、あの二人が狙っているのは恐らくここだ」

 そして妙法院を見上げ、次に道の反対側の智積院を見た。

「もともとこの二つの寺より阿弥陀が峰寄りにあった豊国神社が、何故この二つの寺院を挟むような位置に再建されたのか、その理由は知らんが」

 雅は徳川と豊臣の陰の争いを思い、気分が悪くなった。その時、何かが辺りを覆い始めた。

「何!?」

 雅が上空に目をやると、空一面に黄泉の魔物達が集まって来ていた。

「何をするつもりだ?」

 しかし一般の歩行者達にはそれが見えない。化け物達はスーッと舞い降りて来て、妙法院と智積院の屋根に取り憑いた。その途端に、二つの寺から火の手が上がった。

「消失させるつもりか? しかもあれは……」

 雅にはその火に見覚えがあった。黄泉の黒火。彼自身が以前、大分県の宇佐神宮を炎上させた時に使ったこの世ならざる黒い火だ。周囲にいた観光客達も火事に気づいて騒ぎ始めた。

「黄泉の黒火はこの世ならざる水でなければ消せぬ。普通の人間には、無理だ」

 雅は野次馬をかき分けて、現場に近づいた。やがて、サイレンと共に消防車数台が到着したが、すでに火は寺院の大半を呑み込み、手の施しようがなくなっていた。

「雅にはあの火は点けることはできても消すことはできぬ」

 人混みにまぎれて、舞と隆慶は火事の様子を見ていた。

「智積院と妙法院にかけられた結界は、ほどなく消滅するだろう」

 隆慶はニヤリとして呟いた。二人はスーッと根の堅州国に消えた。

 雅は自分の力ではどうすることもできないので、歯ぎしりして悔しがった。火は勢いを増し、全く消える様子がない。

「藍、気づいてくれ。この火を消せるのは、お前の姫巫女流だけだ!」

 雅は叫んだ。


 藍はバイクで東京駅に向かっている途中だった。

「ああっ!」

 彼女の脳裡に、雅が見ている火事の様子がよぎった。

「火事? あれは黄泉の黒火?」

 雅が宇佐神宮で使った呪術を藍も思い出していた。

「新幹線じゃ、間に合わない!」

 彼女はバイクを停めてエンジンを切り、ヘルメットをミラーにかけると柏手を二回打った。周囲にいた人々はギョッとして藍を見た。

「ふるえふるえ ゆらゆらとふるえ」

 藍の身体が金色に輝き出した。

「高天原に神留ります、天の鳥船神に申したまわく!」

 藍は呪文の詠唱と共に空高く飛び上がり、京都へと向かった。そこにいて一部始終を見ていた人達は、呆然として藍が飛翔して行くのを見ていた。


 他方武智も、京都の異変に気づいていた。

「阿弥陀か峰の結界が破られそうだな。次は大坂の結界か」

 彼は大阪城を見上げた。

「そうはさせんぞ、小山舞」

 武智はスーツの内ポケットから独鈷を取り出した。

「これは、戦国の昔よりの縁による戦い。決してお前達の思い通りにはしない」

 武智は呟き、大阪城へと歩き出した。


 舞と隆慶は、藍が京都に向かっていることを察知していた。

「小娘、姫巫女流の飛翔術で京都を目指しているのか」

 根の堅州国から大阪の教団ビルの前に戻った舞が呟いた。小型のノートパソコンを抱えた隆慶が、

「今京都に行かれるのはまずい。阻止しよう」

 舞はクククと笑って、

「その必要はありませんよ。間に合うはずがない。いくら姫巫女流でも、音より速く飛ぶことなどできはしません」

「そうか」

 隆慶はホッとしたように舞を見た。舞は大阪城を見上げて、

「どうやらあの男がこの近辺にいるようです。邪魔するつもりのようですから、逆にそれを利用しましょう」

「武智を捕えるのか?」

「はい」

 舞の自信たっぷりの言葉に、隆慶は戸惑った。

「あいつの真言には、我らの呪術は歯が立たんぞ。どうするつもりだ?」

「大丈夫です。手はあります」

 舞は不敵な笑みを口元に浮かべ、そう言い切った。隆慶は納得しかねるという顔で舞を見ていた。


 藍は猛烈な速さで飛翔し、京都を目指していた。

「京都で何をしているんだ、小山舞!」

 姫巫女流飛翔術の天の鳥船は、現代風にいうと、亜音速で飛行する術だ。舞の予測を遥かに超えた速さで、藍は京都を目指していた。しかし、光の速さならともかく、戦闘機並みの速さの藍でも、妙法院と智積院の焼失を止めることはできない。

「間に合わなかった!」

 藍は阿弥陀が峰周辺から湧き出す妖気に気づいた。彼女は歯ぎしりした。

( 私がもっと速く飛べていたら……)

 しかしそれは傲慢と言うものだろう。藍一人の力で何もかも解決しようと思うのは、驕り以外の何ものでもない。


 雅はすっかり焼けてしまった妙法院と智積院を眺めていた。

( ならば俺にできることは只一つ )

 雅は黄泉剣を出すと、バッと飛翔し、大阪城を目指す魔物と妖気の塊に向かった。

「こいつらの行く手を阻むしか方法はない!」

 雅は魔物達の前に回り込み、剣を中段に構えた。ところが、その魔物達は、雅を避けるように回り込み、飛び去ってしまった。

「どういうことだ?」

 彼は魔物を追いかけた。すると魔物達は、スーッと根の堅州国に消えてしまった。

「くっ!」

( 舞が手引きしているのか? 大阪城が危ない……)

 雅も根の堅州国に入った。


 藍は雅と入れ違いに京都に辿り着いていた。

「ひどい..... 」

 全焼した智積院と妙法院の残骸を目の当たりにして、藍は呆然としていた。

「妖気はここには感じられない……。一体どこへ?」

 藍はハッとした。

「大阪?」

 彼女は再び飛翔術で京都を飛び立った。周囲にいた人達には、その姿が天女に見えたかも知れない。天女にしては、姿がラフな感じだったが。

「今度は絶対間に合ってみせる!」

 藍はそう呟き、大阪を目指した。


 武智は大阪城の天守閣のそばまで来ていた。彼は天守閣を包む異様な妖気を感じていた。

( 何だ、この禍々しい妖気は? 連中はもう一向宗徒の怨霊を呼び出しかけているのか? しかしそれにしては小山舞の結界そのものがそれに対応した強さになっていない気がする……)

 武智が舞達の企みを測りかねていた時、彼の真後ろに突如として舞が現れた。

「ハッ!」

 武智は気配を感じて舞から離れた。舞はそんな武智の様子を嘲笑し、

「何を怯えているんだい、武智光成。あんたの真言の前には、黄泉路古神道は無力になるんだろう?」

 武智は舞が妙に自信に満ち溢れているのを訝った。

「何を企んでいる?」

「さァ、何かね」

 舞は武智の問いにとぼけた。武智は独鈷を構え、

「何を企んでいるにしても、それは全て潰す。貴様らの思い通りにはさせない」

 舞はニヤリとして、

「京都の結界は黄泉の黒火で破った。お前の先祖が施した結界は、全部叩き潰してやるよ。次はこの城だ」

 天守を見上げた。その時武智は、隆慶の気配が遠くでするのに気づいた。

「何ッ?」

 隆慶は武智と舞がいるところから数十m離れたところに立ち、ノートパソコンを開いてキーボードを叩いていた。

「結界が……」

 隆慶がキーボードを叩くたびに、舞のかけた結界が強まって行く。大阪城全体が、すでに舞の術中に落ちていた。

「どうしたんだ?」

 周囲の観光客達が騒ぎ始めた。大阪城の上空だけが黒く曇り始め、光が届かなくなって行った。

「そうはさせるかっ!」

 武智は印を結び、真言を唱えた。

「タリツ タボリツ パラボリツ……」

 しかし何も起こらなかった。武智は仰天して舞を見た。舞は狂喜していた。

「バカだねェ。私があんたの後ろに不意に現れたのは、あんたを襲うためじゃなかったんだよ。教主様の動きを察知させないためと、あんたに仕掛けをするためだったのさ」

「何だと?」

 武智には舞の罠がわからなかった。舞は武智を指差して、

「お前の指をよく見てみるがいい。右手の指は、黄泉の汚れで黒くなっているよ」

「!」

 武智はビクッとして自分の手を見た。確かに右手の甲から掌まで皮膚の色が黒く変色していた。

「あんたは真言を唱えられない只の生臭坊主になったのさ」

 舞は勝ち誇って叫んだ。武智は舞を睨みつけ、

「ならば戦術を変えるまでだ!」

 彼女に向かった。

「肉弾戦かい? 無駄だよ」

 武智がすばやく舞に突き、蹴りの連続技を繰り出したが、舞は事も無げにそれをかわし、逆に武智に反撃した。武智はそれをかろうじてかわし、飛び退いた。

「私は姫巫女流も修得しているんだよ。世が世なら私が後継者だった。只女に生まれたがために、諦めさせられたけどね。本当は私が兄弟の中で一番実力があったんだよ」

 舞は苦々しそうに言った。観光客達は二人の異様な雰囲気に畏れをなし、少しずつ離れていた。

「生臭坊主は後で役に立つから、ここでは殺さない。でも、静かにしていてもらおうか」

 舞は右手に黄泉剣を出し、武智に近づいた。武智は独鈷を構え、舞を睨んだ。その時、右手に激痛が走った。

「ウワァァッ!」

 手を覆っていた黒が、右腕全体に広がり始めたのだ。武智は痛みに顔を歪めながらも、舞を睨み続けた。

「どうだい、黄泉の汚れの痛みは? 仏法者には殊の外辛いはずさ」

 舞は蔑むように武智を見た。武智はとうとう痛みに耐え切れず独鈷を落とした。

「さァ、大人しくしてもらおうか」

 舞は剣を振り上げ、さらに武智に近づいた。

「小山舞!」

 藍の声がした。舞は歩を止めて辺りを見回した。

「やっとご到着かい、小娘。遅かったね」

 藍は光に包まれたまま、空から舞い降りて来た。それに気づいた武智が、

「藍さん、来てはいけない!」

 声を絞り出すようにして叫んだ。

「えっ?」

 藍はびっくりして武智を見た。その次の瞬間、藍の輝きが消失し、彼女は地面に落下した。

「痛い……」

 藍は腰をさすりながら立ち上がった。武智はそんな藍を見て、

「舞の結界の中なんですよ、ここは。貴女はもう術を使えない」

「えっ?」

 藍はギクッとして舞を見た。舞は嬉々として藍を見、

「あんたはこの中じゃただの小娘。あんたのことはもう何も恐れる必要はない」

 そして高笑いをした。藍はキッとしたが、何も言い返せない。彼女自身、自分に力が湧いて来ないのを悟っていた。

( このままじゃ、武智さんも私も……)

「さァ、本当の大坂城を見せてやる! よく見るがいい!」

 隆慶が叫び、キーボードを叩いた。すると、天守閣上空の黒雲がどんどん広がり、大阪城一体を覆い尽くした。

「キャーッ!」

 観光客達が叫んで逃げ出した。黒雲の中から、たくさんの黄泉の魔物達が飛び出して来たのだ。

「これは……」

 武智は痛む右手を左手で支えながら上空に目をやった。

「黄泉路古神道の奥義、黄泉比良坂越え。現世とあの世を入り交じらせる究極奥義。もうすぐこの世と黄泉の国は一つになる」

 隆慶が言った。しかし藍には何もできなかった。

「秀吉公の大坂城が甦るぞ!」

 隆慶の絶叫に藍はハッとして天守閣を見上げた。

「何?」

 天守閣はグラグラと揺らぎ始め、周囲に地割れが走った。

「どうだ、これこそがわが豊国一神教の力! 我が呪術の賜物だ!」

 隆慶がキーボードを叩きながら叫んだ時、

「終わりだ」

 声がした。隆慶の後ろに雅が現れた。舞はギョッとして雅を見た。隆慶はなす術無く、雅の手刀で首を折られて、そのまま前のめりに倒れた。次に雅はパソコンを右足で踏み潰した。

「これで化け物共に供給されていた負のエネルギーは途絶えた。黄泉比良坂越えも消滅する」

 雅は舞に近づきながら言った。辺りに立ち込めていた妖気は急速に消え、魔物達は消滅した。

「後はお前だ、バアさん」

 雅が言うと、舞は不敵に笑い、

「そいつはどうかねェ」

 そして、

「ここにはもう用はない。次の結界を破りに行く」

「何?」

 雅が眉をひそめて立ち止まった。舞はその機を逃さず、武智に近づき、

「お前も一緒に来い!」

 武智を引きずるようにして根の堅州国に消えた。

「しまった!」

 雅が追いかけようとすると、

「待て。まだ終わってはいない」

 隆慶の声がした。雅と藍は同時に隆慶を見た。

「ど、どうして……?」

 藍は唖然としていた。隆慶は首が不自然に曲がったままで立ち上がっていた。雅も仰天していた。

「我が命は不滅。呪術は成就する!」

 隆慶はその首を元に戻しながら叫んだ。すると天守閣が轟音と共に崩れ、その塊が濠に落下した。巨大な水飛沫が上がり、天守の一部は水底に沈んだ。

「そうか。貴様の呪力が普通でないのは、貴様がこの世の者ではないからなのか」

 雅が言った。藍はビクッとして雅を見た。

「それ、まさか……」

「こいつは舞に殺されたんだ。そして黄泉路古神道の呪術で黄泉返り、呪力が増大した」

「そんな……」

 藍には舞の心中がわからなかった。藍は同時に自分に力が戻り始めているのに気づいた。

「雅、舞を追って! 武智さんを助けないと。ここは私が何とかするわ」

「わかった」

 雅は藍の自信に溢れた目を見て頷き、根の堅州国に消えた。藍は隆慶を睨み、

「貴方は捨て駒にされたのよ、小山隆慶。わからないの?」

「うるさい、小娘! この結界の中では何もできないお前に、そのようなことを言われたくないわ!」

 隆慶は目を血走らせて言い返した。藍は柏手を4回打った。途端に彼女の身体が輝き始めた。

「舞がここを立ち去ったせいで、結界が弱くなっているの。だから私は無力じゃないわ!」

 隆慶はギョッとしたが、

「秀吉公の天守閣が甦れば、もはや我が望みは叶ったも同然! 刮目して見よ!」

 崩壊した天守閣の下から、妖気にまみれた漆黒の天守閣が現れた。それはよく見ると、怨霊達の塊でできたおぞましい城だった。

「これで京都と大坂城の結界は破った。残るは日光のみ。それも舞が破ってくれる。そして日本は我が教団の意のままになるのだ」

 隆慶はもはや人ではなかった。彼の顔は溶け出し、身体の肉は腐れ落ち、骨がむき出しになっていた。

「術が途切れた? いや、舞がもう隆慶を見限ったのか?」

 藍は隆慶が最後まで舞のことを信じていることに哀れすら感じた。

「我が願いは成就せりィッ!」

 隆慶の断末魔だった。彼はその直後只の肉塊と化し、崩れ落ちた。藍は舞の非道に怒りを感じた。そしてまるで巨大な生き物のように蠢く漆黒の大坂城を見た。

「この妖気が辺りに広がれば、普通の人々はひとたまりもない」

 藍はもう一度柏手を4回打った。

「姫巫女流奥義、姫巫女二人合わせ身!」

 天から光が射し、倭国の女王卑弥呼と台与が舞い降りて、藍と一つになった。

「神剣、十拳の剣、草薙の剣!」

 藍の両手にそれぞれ剣が現れた。その時、城が動いた。たくさんの魔物が、藍目がけて舞い降りて来た。

「姫巫女流奥義、神剣合わせ身!」

 藍は両手の剣を合わせ、一周り大きい剣にした。

「天津剣!」

 その剣は光を周囲に広げて行き、魔物達を消滅させた。

「はっ!」

 藍は飛翔し、禍々しい城の上空に上がった。そして、

「ふるえ ふるえ ゆらゆらとふるえ」

 呪文を唱えた。藍の身体が強く輝き、城にその光が降り注いだ。何とも表現しかねる、まさしくこの世のものとは思えぬ叫び声が城のあちこちから上がった。藍は剣を上段に構え、

「斬!」

 振り下ろした。剣撃が光の束となって城に迫り、それを真っ二つに斬り裂いた。断末魔が聞こえ、漆黒の禍々しい城は霧のように消え去った。

「終わった」

 藍はホッとして地上に降りた。

「雅……」

 藍は雅のことを思い、東の空を見上げた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る