お願いですから、僕にください

花るんるん

第1話

 水をください。

 水をください。

 とにかく水を飲ませてください。


 キャラメルマキアートではなく、抹茶クリームフラペチーノではなく、ホワイトチョコレートモカではなく、とにかく水を飲ませてください。

 でも、「どうしても、それらを飲め」と言うなら、飲んであげてもいいですよ。

 僕はやさしいから。

 それとも、やさしい僕に惚れて、水をあげた後に、「それらを飲んでください」と提供するなら、飲んであげてもいいですよ。


 さあ、さあ、さあ、水。

 さあ、さあ、さあ、キャラメルマキアート。

さあ、さあ、さあ、抹茶クリームフラペチーノ。

さあ、さあ、さあ、ホワイトチョコレートモカ。


 「どうしても?」

 どうしても。

 何か僕にさっさと飲ませろよっっっ!!

 「じゃあ、息でも呑んでな!」と言って、君の放ったパンチがコンクリの壁に大穴を空ける。

 「何飲みたい?」

 水です。水がいいです。

 「何飲みたい?」

 いいです、いいです。ノド乾いてないし、何も要りません。

 「本当に?」

 本当に。

 「さっき『何か僕にさっさと飲ませろよっっっ!!』って言ってなかったっけ?」

 気のせいですよ。

 「あたしの目と耳が節穴だと?」

 勘弁してください、ほんとにもう。キャラメルマキアートか、抹茶クリームフラペチーノか、ホワイトチョコレートモカを差し上げますから。

 「じゃあ、抹茶クリームフラペチーノ」と言って、君はにっこり笑う。

 いいんだ、いいんだ。最初から僕は、キャラメルマキアートや抹茶クリームフラペチーノやホワイトチョコレートモカなんて、望んでなかった。水さえ飲めればよかった。水なんてどこにでもある。自力で入手できるさ。

 ここは砂漠――、よりはマシだと思う。たとえ、コンクリの壁を素手で破壊する知人がいたとしても、自力で水を入手できるから。君のご機嫌さえ取っていれば、生き延びることができるから。抹茶クリームフラペチーノの飲み残しぐらいなら、飲めるかもしれないから。

 「早く行くぞ」

 その君のにこやかな笑顔で、僕の財布の口は僕の軽口より、軽くなる。








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