Girl’s Game!

ままかり

第1話

槇嶋まきしまくんってすごいマジメだよね」

「なんか、遊んでても勉強のこととか考えていそう……」

「てゆーか、カノジョも遊ぶ友達もいないんじゃないの?」

 悪かったな、と口には出さないけれど、そんな陰口をたたく女子達になんてこちらから払い下げだ……といいたいところだが、実際の所、週末も帰宅後も予定を誰も入れてくれないガラ空き状態で、結局勉強している。彼女がいないので、そう強くも出て行けないのだが。

 しかしながら、この言説に対してひとこと言っておきたいのは、面白くないだとか、楽しませてくれないとか、そういった見た目で判断するという視点の狭い女性と付き合いたくない!

 ……こういう態度が女性を遠ざけていると言えなくもないが。

 鬱陶しい女生徒が去った教室は、やけに静かだった。家に帰っても妹の千歌ちかがうるさいだけだ。まだ陽も明るいし、ここで勉強でもするか、と思い立った俺は、教室の最後列の自分の席で教科書と参考書と、それからノートを広げて机に向かう。とりあえずは今日の授業の復習。板書を書き写したノートにマーカーを入れていると、ふと、ペンを動かす手を止めてしまう。

 そこは、授業のとき、同級生……しかも学校一の美少女にして才女、半林夏奈加なかばやしななかが教師の間違いを鋭く指摘していたところだった。

「先生、違います。そこは……」

 頭の中で、染めた茶色いロングヘアがなびく。背が俺よりは低いものの、女性としては高めで、言動と供に威圧感があった。非公認の校内ファンクラブまであるほどの人気の彼女はさらに、胸の肉付きがよいにも関わらず、細身で、確かに美少女という言葉は彼女のためにあるようなものだ。

たぶん、ここは一生忘れられないな……。

 ちょっとにやけ顔になったが、両手でパン、と頬を叩き、続きを始めようとした時、小さくカラカラと音を立てて、前方にある入り口、その引き戸がゆっくり、かつ少しだけ開かれる。

 その隙間からおそるおそる顔を覗かせたのは、先程想いを巡らせた夏奈加その人であった。しかも、その美少女がそわそわこそこそ、不思議な行動を取り始める。俺には気づかないのだろうか、忍び足で教室の中に入ったかと思うと、クラス一のエロ猿こと悠木崇史の机の上に置き忘れた、絵の入った下敷きをまじまじと見つめながら、携帯電話を取り出し、その下敷きにレンズを向けて写真撮影なんかを始めるのであった。

「なにしてるの? 半林さん」

 奇怪な行動で人を避けているのは百も承知だが、それでもなお、声をかけずにはいられなかった。

 俺に声を掛けられた半林は、まるで建て付けの悪い扉のような、ぎこちない動きでこちらを向く。その顔はすっかり青ざめていた。

「ど、ど、どうしたの、槇嶋和之くん」

「いや、普通に不審だろ。それに、なんでフルネームで呼んでるの?」

 ……。

 ……。

 短い、しかし永遠に感じられる沈黙。

 それを破ったのは半林のほうであった。今度は顔を真っ赤にしてまくし立てる。わりと面白いヤツかもしれない。

「ね、みんなには黙っていてね。私ね、ああいう二次元美少女が大好きなの。いいでしょ、みんなには秘密よ!」

「てっきり、悠木のことを気持ち悪い、とかいうネタ材料に使うのかと思っていた」

 そう言ったら。半林は真っ赤になった顔をフイと横に向けて

「とにかく、わかったの? はい、もしくは、いいえで答えて」

と迫ってくる。

 その気迫に押されて回答を渋っていると、

「もう一度聞くわよ。私の趣味を人前で喋らない。はい、もしくは、いいえ」

 顔を近づけ、覗き込む半林。大きく見開いた瞳に吸い込まれそうな、気になる女の子のそんな真剣な表情を見ていると、なにも言えなくなってしまう。

 俺が固まっていると、半林は俺の手を掴む。彼女のやや早く打たれる脈が、手を通して伝わる。そんな俺も、気になる女の子に手を取ってもらったみたいな格好になって、かなりドキドキしているのだが。

 どきどき。

 そんな気持ちを知ってか知らずか、彼女は突然、俺の手を自分の胸に押し当てる。学校一の美少女の名は伊達ではなく、まるでグラビアアイドルのような大きさを誇るその胸に触れた瞬間、俺の鼓動は彼女のものとシンクロする。

「わたしのこのドキドキ、わかっていただける?」

「う、うん」

 適当な受け答えをするも、いや、もう何が何だか、頭のネジがぶっ飛んだというか、放課後の、誰もいない教室で美少女と二人っきりで、しかも俺の手がその美少女の胸に当てられている……こんなことになるとは、誰が予想できようか。ふわーっ、とした何とも言えない甘ったるい感情が真っ白な頭の中に広がることだけは、強く自覚していた。

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