第32話

 ……っ!

 俺はその祐佳里の手を上から抑えつけた。

「なんなんだよ、あれ」

 あー、なんだっけな、さっき莉紗がコスプレしていた……サキだ、サキ。その子があのコスチュームで四つん這いになりながら、白い液体を全身に浴びているという、そんな絵柄が袋の中から現れるという事態に、さっきまであの格好をしていた莉紗が真っ赤になっていた。

「先輩、何を入れているんですか?」

「至って健全な幼女向け……」

「不健全です!」

 莉紗は語尾を荒げる。

「こ、こーいちが不健全なのが好きだっていうのなら、そんな作り物よりも、私の方が……」

「莉紗ぉ姉ちゃん、また同じ事いってる」

 怪訝な表情を浮かべる祐佳里。

「いいでしょ、もう」

 莉紗はふくれっ面。

「ま、アニメの変身バンクはエロかったなー。珠姫、弁解!」

「ギリギリ子供が見ても不健全ではない……というレベル、に抑えているのは事実であります。とりあえず祐佳里殿に見て頂いて、面白いかどうか判断していただきたいであります」

 そして親指を立てて、

「祐佳里殿がドはまりしてくれると、信じているであります」

下心ありありの厭らしい笑顔の先輩。

「いちおう、見てみますけど……」

 そう言って祐佳里は、包みの開口部を何度か折り、中身が出ないように閉める。

 それを見届けた佐々木先輩が耳打ちする。

「浩一殿、お願いがあるであります」

「佐々木先輩、変なんじゃないですよね」

「この袋には、我輩の大好きなアニメ『マジカルこねこちゃん』の主人公のコスプレ衣装なのであります。いわゆる、先行投資……。というわけで、写メ、頼むであります」

 俺は、丁重に断った。

「あくまで、祐佳里自身が着てみたくなった時、ですからね。それまでは先輩が持っていてください。俺は関知しませんから」

「そう……」

 残念な先輩。

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