第31話
七星が着替え終わって出てきた。
「その格好……」
「これね。佐々木先輩が『勝負服着るであります』とか言われて押し付けられたのよ」
真っ白な上着に映える水色のリボン。やや長めのスカート丈と五分の袖が、清楚さと微妙なチラリズム、というほどでもないが、絶妙な露出感を演出していた。まだ、春ですしね。
「先輩、着ている服はダサダサなのに、なんでそんなセンスあるんですか? まさか、何かのアニメのコスプレですか?」
「違うであります……何となく、莉紗殿に似合うような気がしたので、つい勢いで買ってしまったであります。自分は着られないし……」
残念そうにしょんぼりしていたかと思うと、くぃ、と眼鏡のフレームを持ち上げる。
「このスーパー瓶底眼鏡にかかれば、七星殿の美貌と身体能力という戦闘力を計測し、最強のバトルスーツを探し出すことなど造作もないことであります」
「スカウターかよ」
さすがにアニメに詳しくない俺でも、そのくらいは分かるぞ。
「先輩、戯れ言はそのくらいにして、……ね、こーいち、私、デートしたくなったのだよ」
「なんで?」
「先輩にかわいい服もらったら、……でいいじゃない?」
すると、祐佳里が頬を膨らませる。
「祐佳里もデートしたい!」
「だーめ! こーいちは私のものなんだから」
「ねぇ、ぉ兄ちゃん」
俺の腕にしがみつき、食い下がる祐佳里。
「ねえ、珠姫お姉ちゃん。祐佳里にもかわいい服とか、ぉ兄ちゃんをメロメロにするような服はないの?」
先輩は少し思考を巡らすも、
「ないでありますな。代わりに、祐佳里殿には、退屈しないようにおすすめのアニメソフトを貸すでありますぞ」
そう言って別の紙袋を差し出す。中を見ると、一枚ごとにクッション封筒に入れられものが所狭しと並んでいた。
「で、どんなのが入っているんだ?」
「魔法少女、百合、邪気眼」
「さっぱり意味わかんねー」
ま、俺だけでなくて祐佳里にも、莉紗にとってもちんぷんかんぷんな回答だろう。
「ま、魔法少女はおなじみの、女の子たちが変身して魔物と戦う、というやつであります。百合は、女の子同士で恋愛する作品、邪気眼は……一般人には説明しづらいであります」
「珠姫、その魔法少女観は違うぞ。八十年代以前は……」
「そうでござった。みゆき殿は厳しいでござる」
舌を出し、てへっ、とした表情。なんでアニメオタクが今時のアイドルの仕草なんか知っているんだよ。
「だから、珠姫はテストで凡ミスするんだ。ま、珠姫のことだから、最近のばかりだと思うがな」
そんな指摘などお構いなしに、佐々木先輩はまくし立てる。
「同士ならば見れば内容を即座に理解できますぞ」
「祐佳里をオタクに調教しようとするな」
「まあまあ、取り敢えず我々の世界を知って頂ければ結構、ということで」
そう言って、俺に紙袋を押し付ける。
「祐佳里、帰って見てみろ、だってさ」
それをそのまま、祐佳里にスルーパス。その中の一つを、祐佳里が拾い上げる。
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