第21話
その時、俺の携帯電話が鳴る。
『ゆかりだよ、ぉ兄ちゃん。早く出て欲しいな~』
それは紛れもなく、祐佳里の声をサンプリングしたものだった。俺が設定したわけじゃない。たぶん、祐佳里が勝手に自分のメールアドレス入れて、吹き込んで、着信音設定したのだろう。
「私のこと、嫌いなの? 好きなら、どうでもいいのだよ」
そういうと、俺の携帯電話を手に取り、電源を切った上でテーブルに置く。
「あなたの従妹、祐佳里さんとくっつくのはダメ。近親相姦よ! 法的にで大丈夫でも、世間が許してくれないわ。私とだったら、何の問題もないわ」
谷間の見える襟をさらに拡げて、
「見たい所があれば、言って。触りたい所があれば言って。行為に及びたい時も、それを受け入れるから」
「な、何言っているんだ、莉紗。俺を嵌めて、自分のいいなりにしたいんじゃ……って、莉紗が俺のいいなりになりたいって意味に聞こえるんだが」
「わ、私はただ、お隣に住んでいるこーいちが……こーいちが変態っていうことがバレて、社会的信用を失い、それによって私たち住人までもが社会的落伍者であるという悪評を受けるというのが耐えられないのだよ。だから、私で発散して」
「でも、そんなことで俺に身体を預けるのって、自分で納得しているのか? そもそも、自分で何を言っているのか……錯乱していないか? とにかく、落ち着こう」
そう言ってみたものの、俺は、目の前に自ら飛び込んできた獲物……莉紗という身体に対して情を抑えることに必死だった。
「落ち着いているわ。……たぶん」
そういいつつ。目を逸らす莉紗。
「こーいち、そんなに私と恋人になることがイヤ?」
「いや、何というか……そこまで俺のこと考えてくれていたのはうれしいけど……」
なんか飛躍してないか? 俺は、莉紗と出逢うまで変態であると指摘されたことも、自覚したこともなかったのに。
「もう一度整理して考えてくれ。どうして、俺と莉紗が恋人に、って話になったんだ?」
「だから私は、従妹である祐佳里さんと関係を持つのはダメだから、私を恋人にしてほしいな、って」
「それはわかった。だからなんで、それで莉紗が身体を差し出されなくちゃならないんだ」
「こ、恋人ってそういうものじゃないの。こ、恋人という同性間の合意があるから、セクハラや強姦に当たる行為も訴えないだけで、やっていることは犯罪と一緒でしょ」
「むしろ、同意がないから犯罪になるわけだが」
俺としては、莉紗が恋人になってくれることはすごく嬉しいし、……けれども、恋人のフリだぞ。本当の恋人じゃないんだぞ。フリ、ってことは俺のことを好いているわけでなく、ただただ、俺の悪評から自分を護るために俺に身体を差し出す……って、やっばりなんでそうなるんだよ。
「恋人のフリ、だったよな。だったら、なんで、本当に愛し合っている恋人のように関係を持たせようとするんだ、莉紗?」
「とにかく、気持ちの問題よ。私を好きになってもらわなきゃ。都合良くやらせてくれる女ぐらいに思われた方が、こーいちの祐佳里さんに対する欲情も紛れるでしょ」
「それで、ただそれだけのことで、俺と恋人のフリをしていいのか?」
「いいって言っているでしょ。いい、わかった? 私と浩一はラブラブなんだからね。まずは、それを祐佳里さんに知らしめてあげるのよ!!」
そう宣言すると、俺の携帯電話を差し出す。
「呼びだして。まずは最初が肝心よ。まずはここのドアを開けたときにキスを見せつけるの」
「それ、あからさまな嫌がらせだろ」
「そうよ。私とラブラブしているところを見せて、祐佳里さんがこーいちを嫌うようになってくれれば万々歳。愛が彼女に向かっていることを自覚して、自分から身を引いてくれれば罪悪感は減るでしょ。取り敢えず、呼びだして」
その強い口調と、莉紗と再び接吻できるという高揚感に駆られて、あわてて電源を入れて、着信履歴から祐佳里を選択する。
『ぉ兄ちゃん、どこにいるの? なんで電源切ってたの?』
無邪気すぎる声を電話口に届ける祐佳里。
「さっきは図書室にいたから、あわてて電源を切ったんだ」
『なーんだ。だったらそっちへ行くね』
「あ、あと、俺たちは司書室の方で勉強しているから、そっちへ来てくれよな」
『わかった。図書室の隣だね。さっきもらった案内図で確認できた。待っててね、ぉ兄ちゃん』
俺は電話を切った。
「じゃ、始めましょ、恋の勉強。厳しいけど、私についてきてね」
莉紗は、不敵な笑みを浮かべた。
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