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SYU
第一章 ヴァルバレイス号事件
1
多目的航宙巡航艦ヴァルバレイス号は、すでに墓標としての役割を与えられつつあった。所有者を失った人間の身体が散乱し、その血液が、流体としての使命を忘れ去ったかのように各所に滞留している。
生気を失ったその艦の通路を、駆け抜ける人間がいた。絶望的な状況下にあって、四散する多数の障害物をたくみに避けて駆ける様子はその有する身体能力の非凡さを証明していたが、さすがに呼吸は荒い。胸には少尉であることを示す階級章があった。注意深く観察すれば、それが女性であることに気付く者がいたかもしれない。しかし、それを検証する機会を与えられた者は、彼女の周辺には存在しなかった。
「…まだ死にたくはないんだけどな」
その独語はきわめて小さく、またそれを聴く者もいなかった。小柄な小隊長は駆ける足の速度を落とすことなく、脱出ポッドのある後部区画へと急いだ。
直角に曲がる通路を通過して、アイリィははじめて足を止めた。彼女の視界が、すでに亡骸となった人間の身体を
アイリィは腰にそなえた光線銃をすばやく抜き取る、ことはしなかった。彼女は背中に掛かった
幸運に救われたもう一方も、比してわずかに多くの時間を生きながらえたに過ぎなかった。相棒を永遠に失った狂獣の、空振に終わった初撃の余勢にあらたな力をくわえた二撃目は、しかしアイリィの槍の
白兵戦において、銃が主たる武器の座を追われて久しい。光線銃はそれが発明されて以降しばらく携行武器の頂点をきわめていたが、
では、生物の多様な進化や未開惑星探査の発展にともなって飛躍的に重要度を増した対獣戦ではどうかというと、そもそも野生動物と戦闘すべき場面では人間より敏捷性にまさる相手が多く、悠長に銃を構えるなど論外である場合が多い。それでも最初の
結局、銃が有用な場面とは、十分な射程をもって戦える場合であって、敵に有効な防御手段がない場合に限られる。なかには、実弾銃と光線銃の特徴を十分に理解した上で、銃を有効に使用しながら格闘戦をおこなう銃闘士と呼ばれる人々も存在するが、その数はきわめて少ない。アイリィ・アーヴィッド・アーライルは他の追随を許さぬ
その判断は自然なものであり、また、正しかった。
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