俺以外の地上のすべてのものが異世界に召喚されたのでこの世界では俺が最強

カクレナ

序章 転生篇Ⅰ

第1話 そして俺以外誰もいなくなった


 ある日突然、俺以外の地上のすべての人間が強制的に異世界に召喚された。


 そのとき俺は学校の教室にいたわけだが、まわりのクラスメイトがつぎつぎと白い光を発して消えていく光景はなかなかに壮観だった。

 すっかりひとのいなくなった教室にひとり残された俺はただただ呆然とするしかなかった。


 ――どうしよう。これ完全に出オチってやつだ……。


 どうしてこんなことになってしまったのか。

 まるでわけが分からなかった。

 あまりにも非日常な出来事を目の前にして、俺は動揺を抑えるので精一杯だった。


 ……よーし、よーし。オーケー。

 こういうときは、取りあえず深呼吸だ。

 すーはー。すーはー。すーはー……。

 ……。……。……。うん、少し落ち着いたぞ。


 ――どうしてこんなことになってしまったのか。


 先ほどの問いをあらためて自分に投げかける。

 そうだな、まずは今朝起ったことを順番に考えてみよう。


 俺はいまからほんの数十分前のことを思い出す――。






 ◆◆◆ ◆◆◆ ◆◆◆ ◆◆◆ ◆◆◆ ◆◆◆ ◆◆◆






 ――あれはだいたい午前八時二〇分を回ったくらいの時刻、朝のホームルーム直前のことだった。

 場所は俺が通っている高校の二年A組の教室。

 いつものように登校した俺はクラスメイトと軽く挨拶を交わしながら教室後方の窓際にある自分の席に着いた(前回の席決めのクジで勝ち取った俺のベストポジションだ)。


 今朝はよく晴れていて、窓からは白く小間切れの雲が青い空をゆっくりと流れているのが見えた。

 グラウンドを見下ろすと登校中の生徒や校門前に立つ教師の姿が見える。

 クラスメイトの談笑を聞き流しつつ、ああ退屈だな、何か面白いことでも起きないかな、でも実はいまのだらだらとした日常もそんなに嫌いじゃないんだぜ――などとラノベ主人公のモノローグみたいなことを考えて自嘲的な笑みをこぼしていた。


 客観的に思い出すと我ながらキモイな自分……。

 でも、そのときは他に考えることもとくに思いつかなかった。

 それぐらい普通の朝だった……はずだった。




 ――低い、地鳴りが聞こえた気がした。




 異変が起こったのは次の瞬間だった。

 ふいに空一面に無数の光線が走り、巨大な円や模様を描くように拡がった。


「!?」


 異変は地上でも発生していた。

 見れば外を歩いていた生徒たちがみな白く発光している。

 それだけではない。

 どういう原理か分からないが、光を発し始めた生徒から順番にその場からふっと姿が見えなくなっていった。

 光っているのは生徒だけでなく、よく見ればその周りにいる教師や一般の通行人までもが同じ現象に見舞われているようだ。


「何だ!?」


 振り返って教室を見まわすと、まさしく教室中の人間がみんなまばゆい光に包まれて消えてゆくところだった。


 いまのいままで俺のほうを見て笑いかけていたかわいい幼なじみ。

 隣の席に座っていた、口は悪いが気のおけない親友。

 ちょうど教室に入ってきた担任教師。


 輝きはじめた瞬間、彼らは一様に困惑の表情を浮かべるのだが、すぐにふっと意識を失って沈黙したかと思うと次の反応を待つ間もなく消滅していった。彼らを包む謎の光とともに。

 その過程はあまりに一瞬のことだった。

 そしてこれだけの異常事態が起こっているにもかかわらず、あたりは驚くほど静かでそれが何より不気味でならなかった。


 何が起こっているのかまったく分からなかった。

 誰かに説明を求めようにも周囲の人間という人間が端から消えていくのだ。

 俺はたまらず教室を飛び出していた。


 見慣れた廊下を走り抜け、助けを求めようと出会い頭に会うひと会うひと手当たり次第駆け寄っては目の前で消え、駆け寄っては消えを繰り返しているうちにひとつあることに気づいた。

 消える直前、そのひとの足下に必ず魔法陣のような光る円が現れるのだ。

 そういえばさっきから空に出ている巨大な円も同じ模様をしている。


 光る魔法陣とともに人間が丸ごとどこかに消えていく。

 それも突然に。跡形もなく。

 いま起こっていることはとても科学的な現象とは思えない。

 これだけ大勢の人間を一斉にかき消してしまう、人智を超えた大きな力の働き。

 そう、まるで神様か何かが無理矢理この世界に干渉しているかのようだ。


 …………これってあれかね? もしかして、いま流行りの異世界召喚系のフィクションによくある展開ですかね? みんなで異世界に行っちゃうっていう。知ってる知ってるネットで見たし。


 ……直面している出来事が理解できなさ過ぎて、もはや冗談みたいなことしか思いつかない。



 俺は俺以外の人間が消えていくのを、ただ見ていることしかできなかった。



 ついさっきまで喧騒に包まれていた朝の学校は、いまやとって代わって巨大な静寂に支配されていた。

 学校だけでなく道路や市街からも何の音も聞こえてこない。

 一応試してみたが学校の電話やネットは何故か全くつながらず、テレビやラジオも雑音を流すだけ。スマホはずっと圏外を表示していた。

 まるでこの地上から俺を除いた全人類がいなくなってしまったみたいだった。


 いったいこれからどうしたらいいのか。


 無人になった教室に戻り、俺は途方に暮れていた。

 この学校は少し高台に建っていて教室からは外の街がよく見渡せた。

 一見していつもと変わらない風景は、実は以前とは決定的に違ってしまっていることをその静けさが告げていた。そしてそれを証明するかのように無数の光る魔法陣が空を埋め尽くしていた。

 

 なぜ俺だけが残ってしまったのか。

 本当に俺以外誰もいないのか。

 いっそ自分もみんなのように消えてしまったらいいのにとも思った。



 ――いや、待てよ。考えようによってはこれはチャンスかもしれない。



 全世界に俺しかいないということは、逆に言えば俺より強い奴はこの世界にひとりとして存在しないってことじゃね? 無双ってレベルじゃないぞ!

 まさに何の努力もせず一瞬にして世界最強になってしまったことになる。

 成り上がり系主人公も真っ青のスピード出世!

 文字通り向かうところ敵なしだぜHAHAHA!!

 ……まあ、敵なしというかそもそもこっちに向かってくる敵がいないんだけど。


 いやいやそれにしたって、俺しかいない事実は変わらない。

 何しろ能力を比べる相手どころか、異世界召喚の時点では優位な立場にいるであろう女神様も聖女様も登場していない。チートスキルを発動させる必要もなければ、わざわざステータスを開いてチェックする手間さえ要らない!

 仮にランク付けすれば上位はずっと空席なわけで実質的に俺がずーっとチャンピオン!! 最初からクライマックスだ!! 天は俺の上にひとを造らず!!!!

 ……まあ、上位が空席どころか俺より下も全部空席だけど。



 …………はあ、むなしい。



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