第9話 そして最後で、最初の日

  


 ぼくは眠かった。

 ぼくは疲れていた。

 家に帰ったぼくを待っていたのは、ベッドのふくらみと、そこから投げ出された、白い足だった。


 ああ、なんということだろう!

 ロザリンドだ!

 ついに、ロザリンドが会いにきてくれたのだ!


 ぼくの血は沸騰した。

 ぼくの欲望を抑えられるものは、この部屋になにひとつ存在しなかった。


 ロザリンド!


 ぼくは荷物を投げ捨てた。


 ぼくの欲望を抑えられるものが、そこに、ただひとつ存在した。



『もうわかったのじゃないかしら』

『私たちの住む世界の名前は?』



 ももの内側の、とろとろとした肌に刻まれた、引っかき傷のような文字。

 そして、解答欄がついていた。



『_ _ _ _ _ _ _』



 ぼくは震える爪の先で、そこに思いつきを書きこんだ。


「正解」


 あァ────…………!



 そのとき、ぼくは気づいたのだ。

 これがすべて、妄想という名の夢だったことに。


 ベッドはどこかへ消えていた。


 ロザリンドは、曇り空の下で、ドレスのほこりを払っていた。


「でもね、あたし思うのよ」


 ロザリンドは、あの妖艶な足がまったく似合わない少女だった。


「この世界にはやっぱり、夢が、あふれているってね」


 そしてそれが、ぼくのロザリンドだった。



 ……………………



 その日からもぼくは、窓の向こうに、彼らの姿を探し続けた。


 彼らはいつでも、そこにいた。




《リンド・リンド・ロンド 終》

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