危険なジュリ

@kazuya

第1話

朝のラッシュの満員電車がジュリは好きだ。

先輩とピッタリ体を密着させ、

吐息が頬にかかる時が幸せだ。





先輩は二度も痴漢を撃退してくれた。

これには少し自分たちにも

責任があると思っている。





ラッシュの中で幸せそうに

体を密着させている二人を見て

男たちはムラムラと男の部分を刺激されるのだ。





不思議なもので

満員電車の中で男女が抱き合っていると、

女性客は背を向け、男性客は近寄って来る。





今朝も込み合った通勤電車の中で、

先輩とジュリはこれ以上できないほど

体を密着させて揺れていた。





周囲の男性客が

わざわざジュリの顔をのぞき込んで来る。

そんな時、ジュリは先輩の胸の中に顔をうずめる。





いつもは何も言わない先輩が

今朝はめずらしくジュリの耳元でささやいた。

「ルームのリストラ、お前に任せるからな」





ジュリは驚いて先輩を見た。

近過ぎてお互いの唇が触れそうになった。

先輩、いま何て言った?





聞き返そうと思ったら、追い討ちが来た。

「部長命令だ。今日からかかれ」

おいおい、おい!私に同僚の首を切れってか。





いいムードがいっぺんに吹っ飛んだ。

先輩は「立花ルーム」のルーム長で

私は主任だ。





デザインのアートディレクターは先輩で、

コピーディレクターは私と

仕事の分担もきれいに分けられている。





しかし、何ぶん先輩はルーム長だから、

仕事の最終責任は負うことになっている。

十八人いるルームスタッフも先輩が統括する。





なのに、リストラは私かよ!!

ジュリは三角の目で先輩を見上げた。

生まれてこのかた、人のクビなんて切ったことない。





「安心しろ。やり方は俺が教える」

なら、自分でやれや!

ジュリは腕をつっかい棒にして体を離した。





ルームスタッフは仲間で友だちで、兄弟だ。

クビなんて切れっか!!

「スタッフ半分にしないと、今月から給料遅配だ」





いま会社の状態がそんなだなんて、聞いてないぞ。

「三ヵ月後には潰れる」

ジュリはため息をついた。





社長や経理担当役員、その他重役たちはどうした。

こんな時のためにいるんじゃないのか。

主任の私がスタッフのクビ切ってどうする。





電車が銀座駅に着いた。

大勢の客に混じって先輩とジュリは電車を降りた。

「社長も役員も期待してるからな」





駅の地下道を歩きながら

何だか無性に笑いたくなった。

いっそのこと、社長と役員のクビを切ってやろうか。





「おっはよう!」

横で声がした。

安東まゆみがならんで歩いていた。





まゆみはジュリの第一の親友だ。

よし、彼女に相談してみよう。

まゆみは総務課にいる。





何か情報を持っているかも知れない。

少しいい気分で足を早めると、

誰かが指で背中を叩く。




見ると左隣を歩く先輩が合図していた。

親指を下に向けて振っている。

なんのこっちゃ!




そして、ハッと気づいた。

彼女も・・・リストラ要員なんだ!

ジュリは愕然とした。





彼女のクビも私に切れってか?

自分の顔が青ざめていくのが分った。

裏切り者って、まゆみに殺される!


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