人間と、アンドロイドのひと
KK
人間とアンドロイドのひと 第1話
高度に区画整理された東京市。
人口密度が高く、他人との物理的な距離が近いにも関わらず、心は砂漠に佇むかのように孤独である。まるで全ての人間が無機質な仮面を付けて暮らしているようだ。私に目を向けないこの冷たい世界では、アンドロイドだけが輝いて見える。
このご時世、能力が高く容姿も良いアンドロイド達が社会現象を巻き起こしていた。最新版の彼らは、体内の循環機能まで人間に似せた作りとなっており、外見に至っては人間と見分けがつかない。そのため法規定された機械製の識別タグを装着させることでアンドロイドであることを判別している。アンドロイドの存在が社会を席巻し始めた昨今、彼らが人間に成り代わる日はそう遠くないかもしれない。
現に日本の人口は8000万人を下回っていた。男女ともに多くの若者は人間相手の恋愛が出来ず、アンドロイドの台頭が少子化に拍車をかけているということは眉唾な話とは言い切れないことが分かる。
とある女性は、数体の美男アンドロイドを従えて街へと繰り出し、ある男性は少女型アンドロイドの手を引いて鉄の迷路の闇へと消える。今や、人と人の心の距離は完全に離れ、それを繋ぐ接着剤の様な役目をアンドロイド達が自然と担うようになっていた。
私自身、人間の男性と交際することは難しいと考えている。
人間のパートナーを見つけて子供を作ることが出来るのは、極めて充実した生活を送っている上層の男女だけだ。そのようなフラストレーションがいつも私を焦らせる。
ある意味アンドロイドは危険である。人間と同じ体格で物理的な強さも持っているし、危険ゆえに法整備も複雑に展開されてきた。プログラム上の不具合によって制御不能になった個体が人間に危害を加えた事故も多くあり、その度に様々なメディアでアンドロイドの是非について議論が沸き起こる。
アンドロイドは自我を持つのか?
先日もまた、不具合を積んだ出荷前のアンドロイドが逃げ出し、識別タグを外して街中に溶け込んでしまったという。"逃亡"のような致命的な不具合を持つ製品は法律に基づいて速やかに強制終了もしくは破壊処分しなければならない。
ホテルの一室から見えるパノラマのような夜景は文明の発展を静かに象徴している。
ニュースに飽きたと同時に小腹の減りを感じた私はふらっと部屋を後にした。しかし夕食を一緒に食べる相手はいない。それどころか会話をする人間もいない。コミュニケーションの相手はここしばらく決まってアンドロイドだし、それでさえ接客を受けたり業務上のやり取りをするだけに過ぎない。
せめて働いていれば人間と親身に接する機会もあるだろう。しかし世の労働者の多くは有能であるアンドロイドに置き換えられつつあり、私自身も長らく失業している身だ。
無人飲食店で夕食を済ませた後、気まぐれに歩いた私は職業センターの前まで来ていた。公共施設にしては珍しく深夜まで対応を受け付けているセンターだ。そこでは私と同じ立場の者が無味乾燥な列をなしていた。
ふいに一人の若い男性が列を抜けて出口の方に向かって歩き出す。その男性は小綺麗な今風の格好をしていて、すぐにでも職を見つけたいといった様子ではなかった。モノクロの場面の中で彼だけ目を引いた。
私は結局、無料配布の資料を受け取るだけに終わった。笑える話だが、ここの窓口でもアンドロイドが働いている。その担当を人間に置き換えるだけでも雇用が生まれるのだが、いつしか首都圏ではこの形が当たり前になっていた。
人間を雇用することは難しい。記憶力、問題解決能力は圧倒的にアンドロイドが優れている。何より人間が持つ精神的な"不具合"が無いと言われていることもアンドロイドを労働に使う大きな理由だろう。
部屋に戻った私は、無意味な日々を送る自分の非力さに罪悪感を覚えつつも、思考に疲れ果てて眠りについた。
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