月夜

蒼空マキ

1話完結

 夜中、ふと目が覚めた僕は、そっとテントから抜け出した。

 虫の音が痛いほど耳に飛び込んでくる。今まで良く眠れていたものだと感心した。

 空を見上げると、大きな月が輝いていた。

 僕が月を見つめていると、背後のテントから、ごそごそとした音がして、美央が出てきた。

「ごめん。起しちゃったかな」

 美央は無言で首を横に振って否定した。

 僕は笑って言った。

「月明かりが綺麗だから、思わずね」

 美央が口を開けかけて――手で押さえた。寝起きだけに、あくびがでそうになったのだろうか。

 せっかく二人とも起きたのだから、このまま寝るのは、もったいない。

「ちょっと、歩いてみようか」

 美央は無言でうなずいた。


 他のキャンプ客を起こさないよう、僕たちは静かにキャンプ場を抜けて、森の小道に入った。美央と手をつないで歩く。懐中電灯がなくても月明かりだけで十分だった。肌に当たる夜風は冷たくもなく生温かくもなく、心地よい。

 森を抜けて広い草原に出たとたん、夜空が視界に舞い込む。無数の星たちが、僕たちを迎えてくれた。

 僕と美央は、草をかき分け、小高い丘の上に登った。

 風に揺れる草が夜露で濡れているのが少し気になったけれど、構わず腰を下ろし、上に寝そべるようにして、空を見上げた。

 真ん丸な月が輝き、雲が右から左へ流されている。純白の雲は月に触れ、黄金色に輝き、また色を変えてゆく。星と月と雲との立体感が昼間では味わえないほど感じられ、手を伸ばせば、夜空に浮かぶ雲がつかめそうだった。

「……綺麗だね」

 僕と同じように隣に座った美央は何も言わなかった。

(確かに。言葉は要らないな)

 僕はすっと左手を伸ばして、彼女の右手に触れた。

 そっと握り返してくる美央のか細い指を味わいながら、僕は思った。

 きっと美央も同じ気持ちなのだろうと。



  ☆☆☆



 彼の手の温かみを感じながら、美央は思っていた。

 ――夕食のバーベキュー。あたしが楽しみに取っておいた焼き鳥を食べたっ。

 謝るまで、ぜーったい、口きいてあげないんだから!!

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月夜 蒼空マキ @SoranoMaki

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