本香る、図書館で、君を

芍薬

君香る、図書館で、同じ本を


図書館の匂いが、私は好き。それは【本】の匂いが好きという事もあるけれど、なんだか落ち着くから好きだった。…なんていう私みたいな人もいれば、「本の匂いを嗅ぐと気持ち悪くなる」という人もいる。私の通ってる塾の先生の娘さんがそうだった。その人は本屋に行くと、お腹が痛くなると言う症状だったけど、本を印刷する時に使うインクの匂いがダメな人も世の中には沢山居るらしい。


それでも私は本が大好きだったし、本の香りが大好きだった。私の通ってる学校は図書室を【図書館】と呼ぶ学校で、最初は不思議だなぁと思っていた事もあったけど、今はもうその呼び方にも慣れてしまった。…もしかしたら私の所だけじゃなく、他の学校の人も、自分の学校にある図書室を【図書館】って呼んでるかもしれないしね。



好きな本のジャンルはバラバラだけど、恋愛ミステリーとか、切ないお話を私はよく好んで読んでいる。理由は特にないけれど、普通の恋愛物の小説や漫画はあまり好きじゃない。王道な恋愛物語、と言えば伝わるだろうか?

王道の恋愛物語は、基本女の子が自分勝手だから好きじゃない。直ぐに嫉妬するし、怒るし、強気だし、何故か自分に自信があるし…、兎に角、私とは正反対で好きじゃないというか、苦手。


そんな恋愛物語の主人公と正反対の私は今日も、ミステリーの小説を手に取る。そしてその小説のだいたい真ん中あたりを開いて、其処に鼻先を寄せる。

「…この本も、あの人の匂いがする」

私には癖があって、それが本の匂いを嗅ぐ事だった。それは私にとって普通の事で、異常でも何でもなかった。


でも最近、私が借りる本に、本とは違う香りが香る事がある。最初は

「香水の変な匂いがする」なんて思っていたけど、最近はその香りがあると胸が高鳴ったりしていたり。


言っておくと、その香りがする本を狙って借りているわけではない。借りる本、借りる本に、その香りがするだけ。

「…これ、何の香りなんだろう」

私は香水に詳しくないから、この香りがなにかも、なんの系統かもわからない。せめてこの香りが何かだけでも、分かればいいのに。


昔なら、本の一番最後にある貸し出しカードに名前を書かないと本が借りられなかったけど、今はそんなもの存在しない。…私の高校には存在しないだけで、他の高校の図書館には存在するかもしれないけど。


兎に角、私の高校にはそんなものは存在しない。個々にカードを持っていて、それを司書さんに渡し、機械にスキャンしてもらう事で本を借りられる。そんなシステムだ。


だからこの香水をつけている人の名前すら知らなければ、学年も、容姿も、何も知らないわけで…。そして何も知らないからこそ、妄想も出来るわけで。


この香水をつけているのはどんな人だろう。香水をつけるような人だ。チャラいのかもしれない。…でも香水の匂いは微かにしかしないし、基本校則で香水、ピアス等は禁止なわけだし…、もしかしたら清楚な人なのかもしれない。黒髪で、少しだけ香水をつけて。ミステリーの小説を沢山借りるぐらいだ。頭が良いのかもしれない。


なんて妄想を膨らませている辺り、私も【恋愛物語】の主人公と同じだな、と、思ったりする。


…でも、会いたいと願うのも、名前を知りたいと思うのも仕方のない事で、止められない想いで。



あぁ、なんかこういう胸がドキドキするの、慣れてないから、苦手。




今日も本から香る甘いけど爽やかな香りを胸いっぱいに吸い込んで、


「これ、借りよう」



貴方との繋がりを、持ち帰るの。






































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