手と手

あれから更に1年が経ち、私達は挙式した。

憧れのウエディングドレス。

本当に私なのか、と自分でも驚くくらい綺麗に仕上げられた私は、いつも以上にカッコよく見える咲夜の隣に座って会場を見渡す。

たくさんの人が私達を祝いに来てくれて、皆笑顔で私達を見ている。

幸せいっぱいだ。

新婚旅行は、北海道と沖縄。日本の端と端は、さすがにハードな旅行となった。


そんな幸せいっぱいの新婚生活も、咲夜が仕事に出かけてしまえば、私にとっては独身同然で、つまらないものだった。

家事を終えると、家でも出来る仕事を探したり、テレビを見たり、ストレッチをしてみたり、気晴らしに散歩に出かけたり。

新しく何かを始めても、毎日続けるとまた新しい何かがしたくなる。


しかし、最近はいつもシルクがそばに居てくれる。

時々、雰囲気でヤッてしまう時もあったりする。

ーこれは、不倫というのだろうか?

もし、これが咲夜にバレたら捨てられるだろうか?ー




ある日、産婦人科に行ってみた。

すると、新たな命が宿っていることがわかった。

ーまさか、シルクの…⁉︎いや、咲夜の…?どっちだろう。わからない。わからないー

その日、私は怖くて、シルクにも咲夜にも伝えられなかった。


数日後、咲夜が私にこう言った。

「…そろそろ、子供のこと…考えない…?」

ギクリとした。

「…咲夜…。あのね…実は…」

「赤ちゃん…。できたみたい。」

私は、シルクに聞こえるように言った。

咲夜はその言葉に一瞬驚き、喜んだ。

「そっか…。よかった。おめでとう…。いや、ありがとう」

「咲夜…」

「何?」

咲夜の澄んだ目を見てハッとした。

「…。やっとパパとママになれるね。」

"咲夜の子じゃなかったらどうする?"なんて聞くところだった。



次の日、咲夜が仕事に出かけて行くと、シルクが話しかけてきた。

「赤ちゃんいるって、本当なの?」

「…うん。」

「その子、本当に咲夜との子なの?」

シルクはオブラートにも包まずに素のままでその言葉を私に投げかけた。

「あっ…当たり前じゃない!」

私がそう言うと、シルクはフッと笑って言った。

「本当はわからないんじゃないの?でも、安心しなよ。俺の子ではない事は確実だから。」

「なんでわかるのよ…。」

「俺さ…1番最初に紗雪に"実は人間だ"とか言ったけど、あれ嘘なんだ。本当のこと言うと、俺はぬいぐるみ。ただ単にぬいぐるみが人間に化けただけなんだ。なんで化けたかって言うと、紗雪が毎日俺たちぬいぐるみにキスしてただろ。アレが原因。」

「なんでキスしただけで化けるの⁉︎」

「俺たちぬいぐるみは、持ち主から可愛がられ、大切にされることによってエネルギーが作られる。そのエネルギーがある量に達すると、が起きる。それが今の俺みたいなもの。」

「つまり、人間になれるってこと…?」

「そう。ただし、そのエネルギーで人間に化けるには膨大な量のエネルギーが必要なんだけど…キスによってそのエネルギーを一瞬にして大量に作れるんだ。」

「だからシルクはよくキスをねだってたのね…。」

「そう。本当に、紗雪のことが大好きだった。最初はただ、一緒に笑って、一緒に話をしたかった。その為にはキスをしないとそれが続けられない。そうして、キスを重ねるうちに、キス以上の事がしたいと思うようになった。サクヤにはちょっと申し訳ないけど、幸せだった。紗雪と…」

シルクがそう言いかけたところで私はキスをした。

「まるでもう、会えないような言い方して…。バカじゃないの。シルクにはまだまだ道があるんだから。この…お腹の中の子と遊んでもらわなきゃ。この子の宝物になってあげて…。」

「…。ありがとう。人間の俺に会いたくなったらいつでもキスしてよ。相手になるから。」

「うん」


それから、私はお腹の子のことだけを考えた。

ーどうか、この子が幸せになりますようにー

そのたった一つのことを願った。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る