あの日ホームランを打てなかった君を責めはしない
あまね
第1話
チリチリと首元を襲うような太陽の光、その光がワーワーと燃え上がる応援団達の熱をさらにあげていく。
県大会の決勝、万年1回戦敗退の僕ら野球部の舞台としては、豪華すぎる。
そもそも高校野球は、しばしば論じられることがあるほどに、理不尽な部分がある。
もちろん理不尽と簡単に言ってしまうほどの精神の弱さが、万年1回戦敗退の野球部の弱さであるともいえなくもないし、強くなりたいと、プロになりたいと、切磋琢磨しているものからしたら、理不尽でもないんでも無いかもしれない。
なので、あえて慣習といわせてもらおう。
いいにしろ悪いにしろ、高校野球の慣習とは、野球の強豪、古豪には凄い選手が黙っていても入学して、野球部に入ってくれるのに、さらにスカウトと声をかけるので、さらに凄い選手が集まる。
それなりの高校には、それなりの選手が集まる。
そして、僕ら野球部は、それなりの選手すら集まらない、目立つような選手も監督もいない、それでも野球部だ。
うだるような暑さでは練習をせず、風の気持ち良い日は昼寝をし、雨が降ったら休み、みんなの気まぐれで紅白試合を楽しみ、バッドをぐるぐるバッドのために使い、野球ボールをバスケットのボールのように扱い、グローブで、物ボケをしたり、野球の神様と言うものがいたら、ほとほとあきれてしまうだろう。
だから、こんな決勝の舞台に立つなんて思ってもいないし、想像もしてなかった。
はじめは、ラッキーだなとか快挙だとか、笑っていた。
試合中もヘラヘラと笑っていた。
一校、一校僕達の高校に負けて、泣いている甲子園球児。
下馬評で、圧倒的に話題にもならないぐらいの弱小高校、次の試合が約束されていたはずなのに、やりきれないだろう。
あのエラーがなければ、あのまぐれがなければ、あのミスがなければ、体調が万全であれば、あのとき強風さえ吹かなければ、数々のやりきれなさが、僕たちに突き刺さってくる。
弱小高校の奇跡として持て囃される頃には、決勝の舞台に上がる頃には、ヘラヘラとした笑いは引きつった笑顔へと、変わっていた。
なんでこんなことになっているのだろうと。
真面目にやっていた甲子園球児に悪いと思わないのだろうか、一生懸命やっている連中に悪いとはおもわないのか、こんなにも眩しい舞台に立つことなんて、僕らには許されないはずだろう。
だから、劇的サヨナラの場面なんていらないんだ。
9回ツーアウト満塁の場面で祈る、僕達弱小高校を応援をしてくれている人たちには申し訳ない。
僕達は、野球は好きだ。
でも、好きだから勝ちたいわけじゃないんだ。
だらだらと、のんびりと気楽に楽しみ、負けてもヘラヘラと笑うぐらいの軽さで、ありがとうといえる気軽な野球が好きなんだ。
だから、ゆるい高校に入ったんだ、ヒーローなんていない、エースなんていない、それでも良いと思ったから、高校でも野球をしてこれたんだ。
打席でこちらを不安そうに見ている後輩よ。
先輩たる僕らは夢を見ているわけじゃないんだ。
甲子園に出るなんてたいそれた夢を見ているわけじゃないんだ。
現実をみて楽しくやっているだけなんだ。
僕達と同じキミたちならわかるだろう。
だから、後輩よキミがホームランを打たなくても、ヒットを打たなくてもいい。
むしろそれでいい。
大人になって酒の席でも誰もキミを責めたりしない。
またいつものように、笑って部活ができるように、三振してほしい。
それが、僕達弱小高校の野球の神さまに願うことなのだから。
あの日ホームランを打てなかった君を責めはしない あまね @kinomahiru
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