ぼくらの新選組! 新徴組清河八郎奇譚

野見宿禰

第1話 竹の子狩り

 ある日の早朝。

田舎道を行く一台の軽トラ。

荷台には黄色い箱にたくさん詰められた竹の子が揺れている。

今が旬のその食材を誰よりも早く採って来たのだ。

今なら皮を剥ぎ先端をスライスにし生醤油きじょうゆを付けて刺身にして食べられるほどの生えたての採れ立てだ。毎年のように竹林で繰り広げられる恒例行事。しかし今年はより充実感がある。取るのが大変であれば大変なほど充実感は倍増する。人間とはやっかいな生き物だ。採る獲られるの中でも生きがいを感じられるのだから。

そんな哲学的なことを考えていたかは別として、運転手は帰りのラジオから流れるニュース番組を聴きながら確実に何時もの年以上の充実感を味わっていた。それは毎年出くわすライバルの顔が見えなかったからだ。ふと頭の中に『おっちんだのではないか?』という思いがぎった、私も彼も70代なのだから。

しかし、まぁ明日も竹の子取りに行ったらヤツもひょっこり顔を出して「おう!」と挨拶ぐらいしてくるだろう。その後ついでに墓参りと掃除をしよう。ん?なんだ?ここいらのことだな?事件?

など考えるうちにカーブに差し掛かりスピードを緩めると、同じようにスピードを緩める対向車が現れた。

やつだ。

ラジオのボリュームを下げスピードを緩めると、対向車も示し合せたかのようにスピードを緩め、二台は隣り合うと停車し窓を開けた。

「よお、これから竹の子採りか?ずいぶん遅いな?寝坊でもしたんか?これから行ってもいっぱい獲ったからなんもねーぞ」

「ふん、ちょっと昨日嫁さんとハッスルしちまってなー」

「馬鹿言うな!お前の歳でハッスルしたら腹上死かぎっくり腰ぐらいだろ!がははっ」

「うっせー。おりゃーそこまで歳喰ってねーわ!」

「ふふん。なんだ?今日は孫と竹の子取りか?」

「いんや。道端でヘッチハイカーってのでな。乗せてやったんだ」

「それを言うならヒッチハイクだろが」

「うんなもんはどうでもいいんだよ」

「確かにお前の孫には見えんぐらい利発そうな顔だしなー」

「うるせー」

「まあ気をつけな」

「おお」

「じゃーな」

と、一通り掛け合うと荷台に竹の子を積んだ軽トラは走り出した。

ゆっくりゆっくりと、例年の倍以上あるだろう荷台の竹の子を見せびらかすように。

「おっ!そうだ!なんだかこの辺りで何だかが出たとか、なんとか・・・」

聞く耳を持たぬとばかりに「ふん!うるせー!あばよ」と捨て台詞を吐くと、こちらの軽トラは急発進をした。



「今の話聞いたろ?竹の子なんもないってよ。それでも行くか?」

「はい。それが目的で来ましたんで」

「あいつがとった後はあんまねんだよな。一人で来てたらやめるとこなんだが、まあ、遅れて生えてくるヤツもちょっとはあるからな。でもあんまり期待するなよ」

「はい」

「ああ、そう言えば名前聞いてなかったな。これも一期一会、呉越同舟ってやつだ。名前なんてんだ?」

「ぼくは―――」



流石に旬の季節。枯れ落ちた竹の葉の絨毯じゅうたんから山全体にうっそうと青々とした竹林が生えている。

そして地面の至る所に竹の子が生えていたであろう場所は絨毯が禿げ、湿った黒土で埋められた痕跡が見て取れた。

「ここら辺が一番よく生える穴場なんだが、全部取られちまってるなー」

「これはダメなんですか?」と腰の下辺りまでなる竹を指差した。

「あー。ダメダメ、全然ダメだよ。そんぐらい大きくなったら硬いし灰汁あくもひどい。支那竹ぐらいにしか使えんだろうな」

「はあ……」

「で、道具は持ってるんか?」

「はい。持ってきてます」

と少年は背中のナップザックを指差した。

「そうか。じゃあ、もうちょっと奥に行ってみるか」

「はい」

二人は竹の子を目指し山奥へ分け入っていった。



「こんなもんかなー」

男は背のかご半分に積まれた竹の子を見て言った。今年は遅刻が響き成長し過ぎたモノは収穫見送り、小振りのモノばかりだ。

ここが潮時だ。

「おーい!もうそろそろ帰るぞー!」

と、男は少年のいた方を見まわした。

「あれ?おーーーーーい!」

返事はない。

「まいったなぁー」



山の中腹、開けた場所に少年は来ていた。来ると周りに伸び切っていた草を手当たり次第引きちぎり片付けると、一つの石が顔を出した。

やっぱりここにあったんだ……。新選組局長、近藤勇の首塚が。

石にはこう刻まれている。

【近藤勇首級を埋む】

「ぼくは今日、ここで死ぬ」

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