女の子を着こなす

@Yuyu_nnyu

第1話うざい


Aはわたしの向かいに座ったかと思うと、スカートを手でしっかりと抑え、手で尻を覆うようにして席に座りなおす動作を、まるで自分を精神を落ち着ける流れのように何度か繰り返した。不安がっているAをみてわたしは興奮する。Aはいま、わたしという人間に対して不安を覚えているから、さも上品であるかのような動作を繰り返すのか。それとも、わたし以外の、同じ空間にいる異性への配慮なのか。どちらを意識しているにしても私はひどく興奮を覚えるし、滑稽さも感じてしまっていた。その振る舞い、わたしじゃない人といるときもしてるのかな、ずっと意識させられて生きてるのかな、はたまた、それを生きづらさとか言っちゃってるのかな、人に対して過剰なまでに気遣ってしまうとか、自分の弱さを美化して他人に相談したりしちゃってるのかな。わたしが何もしゃべろうとしない彼女の許可なしに一方的に興奮していると、彼女はテーブルの上に置かれていたメニュー表を取って、わたしが見やすいようにして広げてくれた。ああああああああああああああ~意識されてる~~~~~~~~~~~うれC~~~~~~~~人権ある~~~~~~~~~~男の人はこれを配慮できる子とか言っちゃうのかな~~~この子に今まで何人の人がそう思ったんだろ~~~~~ってさらにわたしは一人で舞い上がってしまっていた。わたしは、目の前にいる人間が自分といない時、異性に対してどのように振る舞っているのか想像してめちゃくちゃ楽しくなってしまうタイプであった。わたしはほかの男がAにかけているような言葉を意識してAと会話をした。


「Aちゃんって本当に気が利くよね」


「まあ当然だから」


「そっか。当然なんだね」


「うん、当然。できて、当然」


あーこれはメニュー表をAより先に取ってAが見やすいように広げなかったわたしを責めているなあ、少なくとも自分以外にはそういうことするなよ、っていいたいんだろうなあとわたしは反省した。こうやって得た反省、個人の偏見が混じっているにしても「こうしたほうがいい」と指摘してきたことを反映しまくるといつの間にか自分の中に『女の子』が生まれる。『女の子』は後天的に取得するマナーのようなもので、他者の『女の子』を真似して自己に反映させればさせるほどよりレベルの高そうに見える『女の子』が作られる。(ただし、品などは生まれ持ったものなので学習できるものではない。いくら『女の子』を集めても上品になれるとは限らない)


極めて個人的な『女の子』や拘りについては、絶対に「わたしは~だから」とか「それってちがうとおもう」という形で言及してはいけない。それはその子が信じている宗教であり『女の子』だからだ。『女の子』は否定してはいけない。当然だ。今までそれが正しい『女の子』だと思って生きてきたはずだから、そういった個人的な偏見で固められた拘りの部分は否定すべきではない、うっかりすると人格否定につながりかねない。綺麗な言い方をすると「失礼になる」という言葉に値するとおもう。


「次から気を付けるね」


といって、また一つわたしは『女の子』を身に着けた。


わたしはまだ『女の子』の着心地がわからないままにいる、そこに楽さを見出せずにいる。他の女の子も同じように感じているのだろうか。あの子の服、チョー可愛いけど、服に着られちゃっているよね、と指さして知らない女の子を笑う子を見かけた。笑われていたあの子は、実際に『女の子』に着られてしまっているのだろうか。でも『女の子』はファッションじゃないから簡単に脱いだりできない。年齢を考慮しながら図々しさと慎ましさのバランスを取るのは至難の業だ。年をとっても『女の子』を追求すべきなのか。Aを見ながらわたしは考える。


「なに頼むか決めた?わたし、パンケーキね」


まだちゃんと見てもねえよ。


とツッコミを心の中で入れてから、とりあえず目に入った料理を頼むことにした。


わたしは「決めたよ」と、言って頷く前に店員を呼んで、パンケーキと苺クリームパフェを注文した。


超絶『女の子』だった。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

女の子を着こなす @Yuyu_nnyu

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る