”ウンメイ”のアイテム
葉月秋渡
”ウンメイ”のアイテム
これは、今から何百年、何千年も未来のお話。
「......では!次の団体の方々どうぞ!次は古典文学研究会の皆さんです!」
きらきらとした衣装を着た司会が、会場の盛り上がりにそぐわないほどに手を大げさに振り上げて言った。まばらにいる観客たちの興味のなさそうな拍手は、閑古鳥を呼び寄せそうなほどだ。
「どうもー、古典文学研究会です。」
出てきたのは冴えない男たち数人、年齢は20くらいだろうか。銀色の箱のようなものを持ってきている。それの上部には、二つの細長い長方形の穴が開いているようだ。
「私たちが今回ご紹介するものは女性専用のアイテムで、これを使うと自分の好みの男性に出会うことができるというものです。」
その言葉にそれまであくびをしていた観客は一変、一部は軽く身を乗り出した。
司会もこれには興味がひかれたようだ。
「ほほぅ……それは凄いですね。それはどのようにして使うのですか?」
古典文学研究会と名乗った男は得意げに続ける。
「この装置を使う方法は私たちも解明するのに苦労しました。かつての”ニホン”という国で、広く普及していたある本を事細かに解読し、装置を再現しました。まず、これを使うには下準備が必要です。この装置が使われていた時代で言う”パン”というものを作る必要があります。」
聞きなれない”パン”という言葉に司会は首をかしげる。
「”パン”?ですか。聞いたことありませんね。」
「私たちもかつてはそうでした。しかし永い研究の末、現代の小麦で作成が可能ということがわかったのです。」
「ということはこちらにあるのが”パン”というものなのですか?」
司会は傍らに置かれた茶色がかったスポンジのようなものを指さした。
「その通りです。では早速使ってみましょう。と言いたいのですがどうやら効果があるのは朝だけのようなのです。」
男は残念そうに首を振って見せた。
「朝だけですか...それは残念ですね。」
「なので今回は方法だけ紹介することにします。」
「よろしくおねがいします。」
そう司会が言うと、男は何やら刃物を取り出し”パン”というものを切り始めた。
「先ほどの”パン”を厚めのシート状にします。そしてこの装置に差し込むと、数分後に焼きあがって自動的に出てきます。……これで必要なアイテムは揃いました。」
辺りには小麦の香ばしい香りが広がった。司会は笑顔で鼻をすんと鳴らしてから、少し怪訝そうな顔をして言った。
「今のところ全く好みの男性と会える要素が無いように思えるのですが……。」
「大丈夫ですよ。あとは朝ごはんの代わりに、この焼きあがった”パン”をくわえて食べながら走るのです。通勤や通学の時が望ましいですね。」
男は”パン”を咥えるジェスチャーをしながら走って見せた。
「は、はぁ……。説明を最後まで聞いても全く科学的な証拠がみいだせないのですが……。」
司会の怪訝そうな顔は変わらない。観客も背もたれをのびのびと使い始めた。
「このようにすることによって、”ウンメイ”という力が働き、好みの男性とぶつかっている様子が昔の本に図解されていました。そういえば”チコクチコクー”と唱えると、より効果的のようですよ。」
司会の眉間のしわが深くなったことに、男は気付いていないようだ。
「参考までに、この装置の効果の発生率はいかほどでしょうか。」
この司会の質問を受け、暫しの静寂が訪れた。
「そもそも私たち、古典文学研究会は全員が男性であります。」
なぜかここぞとばかりに胸を張って男は言った。
”ウンメイ”のアイテム 葉月秋渡 @akikannon
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