第984話「感情を巡る」

 仄暗い海の底と見紛う揺らぐ世界に少女は佇んでいた。

 現世を憂いても虚しいだけだった。

 怒りも、悲しみも、あらゆる感情を相棒と共に失ったといえば聞こえはいい。


 まるでいままで他人を慮ることができるほどやさしい心の持ち主だったからこそのギャップで、心を閉ざしたようだ。

 もちろん、そのようなことはない。

 本質は楽しければそれでいいだけの存在なのだから。


 ならば、なぜ虚無を眺望しているのだろうか。

 そこには文字通りの無しかないというのに。

 時間は流れている。


 引き延ばされえる時間は限りなく無限に近い。

 外の世界では星が永遠に死と再生を繰り返す。

 心はどこかえ置いてきてしまった。


 友と失った。

 感情はない。

 終わりもない。


 はたして、どれほどの時間が経っていないのだろうか。

 少女の影が揺らぐ。

 二つの影が一つの影になり世界が加速する。 




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