第928話「良心ある街」
「お、落ちましたよ」
震えた声で、少女が何かをそっと差し出してきた。
確かに俺の懐から何かが落ちる気配はしたが、落とすものに心当たりがなかったばかりに気にも留めなかった。
というのは建前で気にするだけの余力を失っていたのだ。
しかしなぜ、そこまで震えおびえるほどの事なのだろうか。
受け取って初めてその事実に頭を抱えることとなる。
そこにはこの国で流通する最高単位の貨幣があったからだ。
無論、最高額というのは巷に出回る貨幣とはわけが違う。
俺が生まれた世界においても、生まれて死ぬまでの間に眼前に拝める機会すらないということもありえた。
それを拾ったとなると、正気でいられないのもうなずける
「ありがとう。助かったよ、これは仲間みんなで稼いだ金なんだ。なくしたなんて知れたらただでは済まなかったよ。これは気持ちだ、受け取ってくれ」
俺は子供に渡すには多少多いかと思える程度を渡した。
渡しすぎても、少なすぎてもいけない。
さすがに、この金額の何割かを渡すなんてことをしたら人の人生を変えてしまう。
「ありがとう!!」
「おっと、教えてほしんだが。よく知ってたな、どこかで見たことがあるのか?」
「学校の授業で習ったけど、本物は初めて見たよ」
「教えてくれて、ありがとう。優秀なんだね」
少女は絵笑顔を浮かべて近くの建物へと消えていく。
やはり裏通りであろうと治安が悪くない。
教養もある人間が住んでいる以上、この国の未来は暗くはないだろう。
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