第871話「彼女を救うための意思」

「どういうことだ? 明らかにほかの奴らと違って体調が悪そうなのがいるが、健康管理もろくにしていないのかよ」


「あれは仕方がないのです。ここにやってきたときにはすでに体のあらゆる機能が失われてしまっておりまして、生きているのが不思議なくらいです。ですが、われわれも慈善事業ではありませんので……」


 どうにも信用ならない。

 俺はもとよりここにいる奴隷を救いに来たわけではない。

 それは、一人を助けることはほかの奴隷を助けないという選択をするからだ。


 ここで奴隷を助けて一緒に世界を旅するなんてことは想定はしていない。

 ここまで来るのに自分が仲間たちに救われてきたという自覚があるからこそ、安易に人を金で買うことなどできなかった。

 物語の主人公なら、まとめて奴隷を救い出すことも、良き相棒を見つけ出すこともできただろうが俺にはそんなことはできはしない。


 そうこうしているうちに、犬耳の少女は椅子から崩れ落ちてしまった。

 心が大きく揺さぶられたような気がした。

 何が起こっている。


「どういうつもりだ……」


「どういたしました?」


「どうもこうも、あいつ死にそうだろ! 早く医者に見せるなりしなければまずいだろうが!!」


「安心してください。あなた様のお買い物が終わりましたら速やかに処理いたしますので」


「処理だと……、ふざけるなよ。人の命を何だと思ってやがる!!」


 俺は顔色一つ変えずにたんたんと答える奴隷商人に怒りを覚えていた。

 今ここで他の誰かを選べば、あの娘は死んでしまうかもしれない、そんなことを考えてしまった。

 迷っている時間はもうない。


「あいつはいくらだ!! いくらなら売ってくれるんだ!!」


「お金はいりません、私についてきてください」







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