第862話「奴隷商人現る」

この街に足を踏み入れた時から違和感を覚えていた。

 この世界に来てから初めて味わうもの得あったからこそ、肌で感じることができたのだろう。

 階級社会には見えないというのに、どうも格差を感じていた。


 そこに、あきらかに異質な男が俺の周囲をうろついていたことにルナは気づいていた。

 その染みついた奇抜さというものは街の中心街では異常でも、この裏道では不自然に思えない。

 寧ろ、これが正しい形だと納得できてしまう。


「いつになったら来てくれるのか、心配していたんですよ。勇者様」


「心配していた? 意味が分からないな。それに俺が勇者だと?」


「勇者に恩を売る機会なんて、そうそうありませんよ。それこそ、一生に一度あれば奇跡。そのチャンスをこうして手に入れることができたというのに、あなたは自分の心に素直にならないのです。身を案じてしまいますとも」


「良くしゃべるやつは好かん。要点を言え」


「自分を裏切らない存在はいりませんか? あなたの奴隷です。あなたがこの街で見て見ぬふりをしてきた存在です」


 俺は目に映るものをすべて信じているわけではない。

 

 

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