第689話「少女は語るよ?」

 登録を済ませてしまえば、部屋に入ることができる。

 本当にこんなに簡単で大丈夫なのかと確認をしたが、誰でもいいわけではないようだ。

 わかりきっていたが、俺達は特別扱いされている。


 ここにいる宿泊者にも間者はまぎれている事だろう。

 それでも、部屋には一切の侵入が許されていないというのだからセキュリティの高さは相当なものだ。

 無論、もともと備わっていたものもすべて信用何てしてはいない。


 ディアナに結界を任せ、誰かが踏み入ったかどうかは簡単な仕掛けをして予防線は張らせてもらっている。

 子供でも思いつくような簡素な仕掛けであるほど案外大人の目には映らないものだ。

 とどのつまりドアに糸くずを挟んだだけである。


 ベッドメイキングに関しては誰かの立ち会い無くして行う事が無いように念を押していた。

 質の高いサービスを受けられるのだから任せてしまえばいいものを、敢えて立ち会うことにしたのも情報交換を行う為である。

 情報を集めるためにはただやみくもに走り回ればいいわけではない。


 時間は皆等しく、不平等である。

 流れる時間こそ同じでも、できる事が違えば全くと言っていいほど残酷なものだ。

 今俺達がコンタクトできる人間も今の特別な状況下であるからこそ巡り合えた。

 

 口が堅いのならば割らせればいい。

 ここで手に入れなければ、他でも手に入れることは出来ずその機会も永遠に来ることはない。

 そのためにも、まずはこの少女から聞き出せるだけの情報は聞き出す。


「話に聞いていた以上の部屋だね。外からじゃ、中がどうなってるのかもわかんないしこのフロアにさえ入ることができないし」


「その口ぶりからだと、この宿は初めてではないようだな」


「ここに来たのは今日で2度目だけど、泊まったことはないってのは言っておかないといけないか……。ここにはお兄さん達みたいに外から来た冒険者、行商人、貴族……上げればきりがないけど、お金を手に入れる力がある人があつまるから」


「だが、俺達に目を付けたのはそこじゃないってことだな。偶然なのか、バニティーに作らせた得物を見られてしまった」


「今だから言えるけど、この街の中ならどこにいてもお兄さんのっていうよりもその武器の場所は分かったんだけどね。万が一にも捨てるなり隠すなりされたら困るから言わなかったけど。もうここまできたらそれはないでしょ? 受付のやり取り見てたけど、お金もそれほど持ってるわけではないみたいだし」


 言いたいことは山ほどあるが、実際問題俺達もリスクは犯したくはない。だから、あえて招き入れることで対処することになった。それも余計な心配だったみたいだがな。


 

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