第651話「異世界十日目」

 弾力のあるそれは確かに俺の顔を塞いでいた。

 スペラならばベッドから放り投げていたところだが、彼女にはどうもそういう事ができる気がしない。

 寝顔を無邪気な少女そのものだというのに。


 しかしながら一種の節目である10日目を美少女の胸の中で迎えるのも悪くはない。

 この状況を堪能していたいのはもちろんのことなのだが、何分息が持たない。

 このままでは戦う前に味方に殺されてしまう。


 幸せな顔で死ねるなんて本望ではないだろうか。

 答えはもちろんNOである。

 確かに辛いことは山ほどあるが、今日この瞬間のような出来事はこの先幾千とあるのだ。


 ならば、ここでは死ねない。


「アマト……。おはよう」


「おはよう」


「大丈夫、安心して」


 安心はできない。

 理不尽だと思う。

 それでも朝からぼこぼこの凸凹にされることはなかった。

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