第594話「その笑顔を忘れない」

 一日で移動できた距離なんて大した距離ではない。

 地上を歩いて移動するよりも遥かに無駄な時間を過ごしたと思うか、皆の回復に時間を掛けた事への必要なことだと割り切るか意見の分かれるところだが結果として参事は避けられた。

 ファンタジー世界よろしくドラゴンを一瞬で真っ二つになど出来ないのだから俺達は生きのこれただけましだと言える。


 俺一人でも生き残れず、俺以外のメンバーだけだとしても生き残れなかった。

 そうれは今だからこそわかる事であって、窮地に陥り余裕のない状態で果たして他に選択肢を見いだせていただろうか。

 今となってはわからない。


「ここなら何が来てもすぐに隠れられるにゃ。暗くなる前に進めるだけ進んでおくにゃ」


「一人で突っ走るなよ。なんだかんだでスペラが一番無茶してるんだからな。俺も人のことは言えないが、人の事なら言ってやれる」


「私たちが隠れやすいってことはモンスターもどこかに隠れてるかもしれないってことだからね。アマトはわかっても私達が知らずにぶつかることだってあるんだから、ばらばらにならないようにしないといけないかな」


「ボクなら飛んでいけるけど、見つかってみんなの居場所が特定されるリスクには合わないよね。それにダーリンと何をしていてもばれないならなおさらね」


 そういってルナはこれよがりに体を密着させる。

 いつもなら止めに入るユイナだが、あまりにも密集している草の葉が遮り今一歩というところで手が届かない。

 さらにごきげんなルナが顔を近づけるがそれ以上は許してはくれない。


「その辺にしておいたほうがよろしいのではないかしら」


「混ざりたいのかな?」


 挑戦的な視線がディアナに向けられる。

 それを見て、俺は心配し過ぎだったのかとつい誤った結論へと至ってしまった。

 目の前の平穏な光景が永遠のものだと錯覚し正確な判断に翳を落とした。

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