第518話「燕尾服の男」

「少年、そうにらまないではくれないか。今、用事があるのは向こうの連中なのだから」


 口調もさることながら、その落ち着いた雰囲気は大人びている。

 なんといっても燕尾服を着ているところが場違いと言わざる負えない。

 それでいてこちらに興味が無い風を装っているが、あからさまであるからこそ底が見えない。


「怪しい人間が突然空から降ってきたら、嫌でも見ちまうっての。まあ、こっちもあんたに用はないがあっちはそうでもないんだな、これが」


「そうか……それは残念だ。邪魔をしないというならば、もう少しだけ長生きできたというのに。君はその僅かな時間すらもいらないというのだろ?」


 その物言いは戦う前からすでに勝利を確信した者のそれだった。

 自信などではなく、決定した事象を淡々と説いているように聞こえる。

 そうさせる何かがあるのだ。


 

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