第510話「回遊魚?」


 僅かに距離を取った瞬間、僅かながら呼吸が可能となった。

 刹那、息継ぎをしたに過ぎなくともそれだけで数分の猶予ができたのだ。

 この切迫した状況であっても、この僅かに得た安息の時間と言うものは悠久に等しい。


 思考も加速度的に増していき、時間の概念を解き放たれた鳥のようであった。

 翼なんてものが無くとも今ならばどこにだって飛んでいける錯覚さえする。

 ここが光の届かない海の底であるのだから、魚人にとっての空のようなものであろうがスペラは停滞する。


 必ずしも自由な空間を支配するすべが、範囲によるものではない。

 陣地を拡大するよりも絶対にとられない陣地が一つあれば瘴気は必ずある。

 魚人はこの海の中で凄まじい速さで動きまわることが出来てはいるが、身体に負荷をかけない為にオーバーランをしている。


 戻ってくるまでの速さがどれだけ早くともその距離と時間は埋まることが無い。

  

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